世界における第四世代原発の開発 超高温炉(8)

 

2014.8.15

 第四世代原発として開発される6タイプの原発について、第四世代フォーラムのウェブサイト(参考資料の1と2)を参考にして手短な説明を試みています。

  

最後の6番目として、超高温炉です。

 

(6)超高温炉

 ・狙いは、原子炉を熱源として700から950度C、

  将来は1000度Cの高温度を産業向けに開発する

  ことにある。水素の製造が画期的になる。

 ・水素は、原子炉を熱源として水を化学変化させて得

  られる。鉄、アルミなどの製造にも熱源として利用

  できる。

 ・当然ながら、発電も可能である。

 ・熱中性子炉である。

 ・ヘリウム冷却である。

 ・減速剤として黒鉛が使われる。

 ・高温に耐える核燃料と構造材の開発が必要である。

 ・核燃料は高温対策として、SiC被覆、さらに高温

  にはZrC被覆が開発される。

 

この原子炉は熱中性子炉なので、運転中にプルトニウムという厄介な副産物が発生します。産業用にあちらこちらでこのような原子炉が熱源として使われる状況はあまり想像したくないことです。また、これまでの原子炉では使われたことのない高温の原子炉となるので、将来開発が成功したとなっても潜在的な安全と事故のリスクを無視することは危険と思われます。

 

 

<参考資料> 

 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

 

なぜプルトニウムがウランよりも危険視される?

 

2014.8.14

プルトニウムがテロリストの手に渡ると原爆を含めた核兵器を作りかねないということで、プルトニウムは極めて危険視されています。原爆を含めた核兵器を作れるウランよりもプルトニウムが危険視される度合いが大きいのはなぜなのでしょか?

 

毎日新聞の新連載である「核回廊を歩く」(戦後70年に向けて)に断片的ではありますが、その回答となりそうな説明がありました。「プルトニウムの方が、核兵器の小型化に適しているから」という説明です。以下に引用します。

 

<毎日新聞、2014年8月12日朝刊から引用>

広島型原爆(15キロトン)より威力の大きい20~30キロトンの核兵器を作る場合、ウラン型なら500~600キロほどの重量になる。だが、プルトニウムを使えば、「100キロ以下」だ。

 

「プルトニウムを使えば、ゴルフボールぐらいの大きさのものを作れる。小型核を作るには、プルトニウム型の開発が不可欠だ」

 

ミサイルの飛距離は、弾頭の重さに反比例する。ソフトボールより野球のボールの方が、遠くまで投げられるように、小型核を使えば、遠くまでミサイルを飛ばすことが容易になる。

 

引用は以上です。

 

別の資料では、他の理由としては、ウランの場合には濃縮の工程のため割高になることが挙げられています。また、プルトニウム239は臨界量(critical masss。核分裂が連鎖して継続するために必要な最小の質量。これ以上の質量の核分裂物質があると原爆が可能になる)がウラン235、ウラン233と比べて一番小さいこともその理由として挙げられています。これは原爆を含めた核兵器の小型化を可能にします。プルトニウム239の臨界量は10キログラムで、球の形であれば9.9センチメーターの直径の大きさです。ウラン235では22キログラム(直径が17センチメーター)またウラン233では15キログラム(直径が11センチメーター)とされています。この臨界量は技術的な工夫をすることによってさらに小さくできます。プルトニウムでは、何と1.5キログラムという少量で臨界にできるそうです。これはゴルフボールより小さいようです(小さい町を破壊できる威力と思われます)。この小さくなった臨界量は超臨界量(supercritical mass)と呼ばれています。

 

<参考>

長崎に1945年8月9日に投下された原爆、ファットマン(Fat Man)はプルトニウムが6.2キログラムという少量でソフトボールのサイズでした。これでTNT火薬の21キロトンもの威力です。なお、実際に核分裂を起こしたのはそのうちの1.1キログラムだけということです。ファットマンそのものは全重量が4.6トンとなっています。

 

広島に1945年8月6日に投下された原爆、リトルボーイ(Little Boy)は64キログラムものウラン235を含んでいたということです。威力は15キロトンです。実際に核分裂を起こしたのはそのうちの1.38%(0.88キログラム)だけでした。全重量は4.4トンとなっています。

 

以上の長崎と広島の原爆に関する情報は、参考資料1によるものです。

 

<参考資料>

1.The Manhattan Project Heritage Preservation

      Association, Inc のウェブサイト 

http://www.mphpa.org/classic/HISTORY/fat_man.htm

 

以上

 

原発 トリウム熔融塩炉について返答3

 

2014.8.13

makotoT 氏からさらに次のようなコメントを頂きました。

  

<makotoT 氏のコメント:8月11日>

 早速にご回答いただきありがとうございます。

やはり液体燃料を使う利点はたいへん大きいのですね。翻って、その短所としては容器の「腐食」の他にどのような問題点が懸念されるのでしょうか、又、高温の融液がタンクの内壁に接触することによる「腐食」とは、具体的にはどのような現象なのでしょうか?電気化学的な腐食でしょうか?

 

<返答3>

アルビン・ワインバーグ基金(Alvin Weinberg Foundation)から2013年にトリウム熔融塩炉に関する近況が発表されていますので、その内容を紹介します。

 

なお、アルビン・ワインバーグ博士はオークリッジ国立研究所の元所長(任期:1955~1973年)であり、熔融塩炉を主唱しその開発を指導した人物です。

 

(1)腐食

 

トリウム熔融塩炉で起こる腐食の対策として開発されたハステロイーN合金(ニケッルがべースの合金)には次の2種類の腐食が起こることがオークリッジ研究所で発見され対策が開発されたが、当時国によるトリウム熔融塩炉の開発中止の決定のあおりを受けて完成には至っていない。

 

① 炉内での中性子照射によってヘリウムガスが合金の中に生

  成され溜まって合金にストレスを与えて合金が脆くなる。

  チタンを合金に添加する対策が開発されたが、実証実験は

 1973年に国による予算カットのため中止された。

② 核分裂生成物であるテルルがハステロイーN合金に腐食を

  起こす。ニオブを合金に添加する対策が開発されたが、実

  証実験には至らなかった。

 

その後、新材料が開発された。カーボンファイバー強化カーボンとシリコンカーバイドファイバー/シリコンカーバイドマトリックスが開発された。熔融塩炉の熱交換器、ポンプ、パイプ、容器をハステロイーN合金からこれらの新材料に取り替えることが考えられる。現在、中国でこの新材料を試験している。

 

まだ、構造体などに使う基本材料が確定していないという状況のようです。基本材料の確定はじっくりと確実に進めて欲しい技術開発です。

 

(2)その他の問題点

核分裂生成物である貴金属は熔融塩に溶けないため問題を起こす。また、トリチウム(三重水素)が多量に生成される。放射性でありまた透過性が強いので扱いが厄介である。

 

上述の説明から分かることは、熔融塩炉の特徴である液体であることが「裏目」に出ていることです。燃料が固体であれば、核分裂生成物は固体燃料被覆管の中に閉じ込められます(漏れる事故は起こります)が、液体燃料の場合には溶解して炉内の全体に分布して、タンクの内面と接触して反応を起こします。また、溶けない貴金属のような物質が生成されれば、固体の状態で炉内やパイプ、熱交換器の中を浮遊し問題の種となります。核分裂生成物は、その崩壊も考えると「無数」とも言える元素を含むため、熔融塩炉の中は「やみ鍋」のようなものです。

 

他の問題としては、フッ化物熔融塩には毒性のベリリウムやフッ素を用いること、また、強烈なガンマ線を発するタリウムの同位体が生成されることが、別のサイトの記事には記載されています。

 

また、液体燃料の沸点が1400度C程度ということは、気をつけなければならない点と思われます。トリウム熔融塩炉は、700度Cに近い温度でオークリッジ研究所で試験されたわけですが、発電の熱効率を上げるために1000度Cほどの高温を目指すことも語られています。そうなると、材料の選定がさらに厳しくなり、また、沸点との温度差が縮まってきて沸騰を起こす「不慮の事故」の可能性も高まって来そうです。

 

いづれにしても、実績の少ないまた発想の異なる技術なので、その利点を実現するためには、「想定外」の事故の可能性を出来る限り狭めることができるように、じっくりと開発を進めていただきたいと願うばかりです。

 

 

<参考資料>

1.ワインバーグ基金のウェブサイト

   "Thorium-fuelled Molten Salt Reactors"

    June 2013

   The Weinberg Foundation

http://www.the-weinberg-foundation.org/wp-content/uploads/2013/06/Thorium-Fuelled-Molten-Salt-Reactors-Weinberg-Foundation.pdf#search='weinberg%2C+thorium%2C+corrosion'

 

以上

世界における第四世代原発の開発 超臨界水冷却炉(7)

 

(前ブログから続く)

2014.8.12

 第四世代原発として開発される6タイプの原発について、第四世代フォーラムのウェブサイト(参考資料の1と2)を参考にして手短な説明を試みています。

 

 

5番目として、超臨界水冷却炉です。

 

(5)超臨界水冷却炉

 ・超臨界水を冷却に用いる。狙いは、高温で使えるため

  熱効率が44%と高い値(軽水炉では33~35%)

  を狙えることと、システムの構成が単純になるため、

  小型化が可能なことであり、経済性を狙えることに

  ある。

 ・熱中性子炉で研究開発を進め、高速炉に拡張できる。

 ・超臨界水は化石燃料での発電に使われている。

 ・カナダが625度C、247気圧(25MPa)で

  出力が1.2GWの超臨界水炉のコンセプトを開発中

  である。

 ・中国が、2007年~2012年に概念的な設計を行

  った。

 ・第四世代フォーラムが指摘する課題は

  ①腐食と応力腐食クラック。

  ②安全性

  ③強度、脆化、クリープ。

  ④原子炉の設計。

 

超臨界水を用いる冷却方式は、日本の東大が1989年に発案し、2002年に第四世代原発の1つに選ばれています。

 

超臨界水と言うのは、温度が374度C以上で圧力が218気圧(22.1MPa)以上の水のことです。このような高温・高圧の状態では、水に液体と気体の区別がなくなります。つまり、沸騰という現象が無くなります。

 

 

<参考資料> 

 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

原発 トリウム熔融塩炉について返答2

 

2014.8.11

再び makotoT 氏から次のようなコメントをいただきました。

 

<makotoT氏のコメント:8月10日>

解りやすい解説をいただきありがとうございます。ものごとすべからず、口で言うほど簡単ではないのですね。
《トリウム核燃料から生み出されたウラン233を炉心から取り出し分離して別の原子炉で再利用するための「連続化学処理」は「その装置の技術開発が炉本体よりはるかに困難である」ので、応用しない旨が説明されています。これは、液体の化学プラントの利点であり本質である「連続化学処理」を諦めたことになります》
とありますが、「連続化学処理」をあきらめたとしても「液体燃料方式」の利点は残されていると考えてよろしいのでしょうか?

 

  

<返答2>

液体燃料は化学プラント性を除外しても利点があるため第四世代原発開発の6タイプの候補の1つに挙げられていると言うことができます。第四世代原発開発も「連続化学処理」は除外した説明になっています。

 

以下は、古川和男著、「原発」革命、文藝春秋、2001年出版に準拠した説明です。

 

液体核燃料であることの本質的なメリットとして、炉心のメルトダウンが起こらないことは 、重要な点です。

 

固体燃料棒を作ったり集合体に束ねたりする必要がなくなることも液体燃料の大きなメリットとされています。また、固体燃料棒は生成した放射性ガス(クリプトン、キセノンなど)を封じ込めておくためにジルコニウムの合金で被覆されますが、そのような工程も不要です。

 

固体燃料は破損などが起こります。液体燃料はそのような心配はありません。


固体燃料では、途中で原子炉を停止して固体燃料の位置換えをして燃料の使用効率を上げなければならないということですが、液体燃料ではそのような作業は不要になります。また、固体燃料では、原子炉を停止して燃料の取替えをたとえば数年後ごとに行います。液体燃料ではそのような燃料の取替えは不要です。

 

ここからは、当ブログによる考察です。熔融塩炉に「連続化学処理」など化学プラント的な要素を適用しないとすると、熔融塩炉の技術は炉体の中が高温の融液であること以外は、ナトリウム冷却や鉛冷却の技術に似通って来るように見えます。そのためか、第四世代原発のロードマップでは熔融塩炉の実証炉は2020年から2030年の時期という割合に早い時期に設定されています。

 

熔融塩炉では、高温の融液がタンクの内壁に接触しているため、腐食の問題が開発の当初から基本的な課題として認識されて来ていますが、この「腐食」は第四世代原発の研究開発の項目の1つとして継続して取り上げられています。じっくりと確実に「腐食」の問題が解決される進展が望まれます。

 

<参考資料>

1.川和男著、「原発」革命、文藝春秋、2001年出版

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

3.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

  

以上

世界における第四世代原発の開発 ナトリウム冷却高速炉(6)

 

(前ブログから続く)

2014.8.10 

 第四世代原発として開発される6タイプの原発について、第四世代フォーラムのウェブサイト(参考資料の1と2)を参考にして手短な説明を試みています。

 

 4番目として、ナトリウム冷却高速炉です。ナトリウム冷却は6タイプの中では最も研究開発が進んでいると思われます。日本では、もんじゅがナトリウム冷却の高速増殖炉の原型炉として有名です。

 

(4)ナトリウム冷却高速炉 

 ・狙いは、現在のほとんどの原発では利用できないウラン

  238の活用と高温化による熱効率の改善にある。

 ・ナトリウム冷却の技術的な問題はほぼ研究開発されてき

  ている。

 ・ナトリウムは水や空気と反応するため、安全性が課題で

  ある(鉛冷却材はこの課題への解決策として登場してお

  り、水や空気との反応性が低い)。

 ・高速中性子を用いる高速炉である。

 ・アクチニド処理が出来る。

 ・クローズした燃料サイクルを構築できる。

 ・出口温度は500度C~550度Cである。

 ・燃料はMOXあるいは金属である。

 ・小型で出力が50M~300MWe、大型で1.5G

  Weが考えられている。

 ・これまでに、フランス、日本、ドイツ、英国、ロシア、

  米国で研究開発された。

 ・第四世代フォーラムで指摘されている課題は

  ①コストの改善(ナトリウム特有の安全対応でコストが

   かかっている)。

  ②安全対応。

   

ナトリウム冷却技術は既に研究開発されてきており、大きな課題は実用化に向けたコスト改善という段階まで達しているといわれています。熱で溶かされた金属ナトリウムの液体が冷却管の中を駆け巡り、炉心の熱を外部に取り出します。

 

<参考資料> 

 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

原発 トリウム熔融塩炉について返答

 

2014.8.9

8月8日に当ブログで扱いました第四世代原発の開発候補の1つである「熔融塩炉」について、makotoT氏からコメント欄に以下のようなご質問を頂きました。同氏から頂く的確で熱意のこもったコメントには勇気付けられます。

 

<makotoT氏からのコメント(8月8日)>

「私は化学に弱いのですが、トリウム溶融塩炉推進論者であった故古川博士の言葉が、今でも忘れられません。曰く「原発は基本的に化学プラントであるべきもの。そして化学プラントは液体で処理されるのが基本であり、それを(従来の原発のように)固定燃料を扱うこと自体に無理があり、安全上の種々のウィーク・ポイントが出てくる」。言い回しは兎も角として、このような趣旨のことを言われています。これはきわめて本質的なことだと思うのですが、いかがでしょうか?」

 

<返答>

まず、直接的な返答ですが、液体の核燃料を使うことはきわめて本質的です。ここで言う「本質的とは」、発想の転換であること、技術的に別次元の分野にあること、従来の技術(固体燃料)では得られないメリットが生み出される(この点が技術開発としては最も肝心なことでしょう)などを意味すると考えています。

 

液体の核燃料と言うことから生み出される大局的なメリットは、

 ①炉心のメルトダウンが原理的に起こらないこと(これは

  化学プラントとは関係ありませんが)

 ②液体の薬品を使う化学プラントのようにオンラインの運

  転と連続処理(供給、取り出しなど)ができる

の2面に集約できると思われます。

 

ただし、現実は、とくに化学プラントとの類似性に関してですが、絵に描いたようにはいかないようです。

 

古川和男博士の著書である「原発」革命の180ページに詳述されていますが、トリウム核燃料から生み出されたウラン233を炉心から取り出し分離して別の原子炉で再利用するための「連続化学処理」は「その装置の技術開発が炉本体よりはるかに困難である」(同書から転載)ので、応用しない旨が説明されています。これは、液体の化学プラントの利点であり本質である「連続化学処理」を諦めたことになります。

 

また、「連続処理」として格好の項目であるトリウム燃料の自動補給あるいは連続補給については、とくに連続で補給しなくても半年に一回トリウム燃料を追加すればよいという趣旨のことが、同書の161ページに書かれています(連続補給はできるが、そのメリットはないということなのでしょう)。

 

化学プラントというと、パイプラインが張り巡らされている工場のイメージがあります。同書の148ページや155ページの熔融塩炉の図でも、「パイプライン」が目に付きますが、これは熔融塩炉に特有のものではなく、通常の原発に共通のものです。なお、148ページの図に描かれているドレインタンクと緊急ドレインタンクにつながるパイプは熔融塩炉に特有です。

 

最後に、プルトニウムの生成に関しては、トリウムを核燃料に使えば、プルトニウムの生成は起こらないという核兵器問題の核不拡散に関わる大きなメリットがあることが知られています。ただし、このメリットは固体のトリウム核燃料でも液体のトリウム核燃料でも実現できます。

 

以上

世界における第四世代原発の開発、溶融塩炉(5)

 

(前ブログから続く)

2014.8.8 

第四世代原発として開発される6タイプの原発について、第四世代フォーラムのウェブサイト(参考資料の1と2)を参考にして手短な説明を試みています。

  

3番目として、溶融塩炉です。

 

(3)溶融塩炉

 ・通常の原子炉が固体の核燃料を使うのに対して、溶融

  塩炉では溶かした核燃料を使う。このように核燃料が

  元々溶けているので「メルトダウン」という事故は原

  理的に起こらない。また、核燃料が液体であるため、

  燃料を循環させて補給できるなどの利点がある。固体

  燃料のように面倒な燃料作製工程が不要になる。長期

  間に渡って放射性が問題になるアクチニド核種を取り

  出さずに消滅させることができる。

 ・ウラン238あるいはトリウム232を親燃料物質と

  して使える。

 ・フッ化物の溶融塩を用いる。

 ・熱で溶かされたフッ化ナトリウムやフッ化ジルコニウ

  ムはアクチニド核種を溶解できる。

 ・熱中性子あるいはエピサーマル中性子(熱中性子より 

  もエネルギーが少し高い中性子。高速中性子ほどは高

  くない)が用いられる。

 ・温度は450度C~800度Cと高い。

 ・熱効率は44~50%と高い。

 ・減速材に黒鉛が用いられる(黒鉛は燃えることが基本

  的な問題)。

 ・1GWの出力が想定されている。

 ・溶融塩炉は米国において1940年代の後半から

  1950年代にかけて飛行機の推進力として開発され

  た。ウラン235、ウラン233、プルトニウム239

  が溶融核燃料として実証されている。

 ・1GWの溶融塩炉の設計が米国で行われた。

 ・第四世代フォーラムが指摘する課題は

  ①溶融塩の化学的特性。

  ②アクチニドとランタニドの溶解性。

  ③構造材や黒鉛との整合性。

 

一旦下火となったトリウム溶融塩炉の検討が息を吹き返してきたようです。これまで固体燃料の原子炉に慣れてきた一般人にとっては熱湯のような始めから液体の核燃料を想像することはむずかしいですね。柔軟な頭脳をもっているかまた発想の転換ができるか試されているような原子炉のコンセプトです。

 

 

<参考資料> 

 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

世界における第四世代原発の開発(4)

 

(前ブログから続く)

2014.8.7

第四世代原発として開発される6タイプの原発について、第四世代フォーラムのウェブサイト(参考資料の1と2)を参考にして手短な説明を試みています。

  

2番目として、鉛冷却高速炉です。

 

(2)鉛冷却高速炉

 ・高温で溶かした金属鉛が冷却管の中を駆け巡ります。

 狙いは、現在のほとんどの原発では利用できないウラン

  238の活用と高温化による熱効率の改善にある。冷却

  材として反応性に高いナトリウム代わりに酸素、水との

  反応性が低い鉛あるいは鉛ビスマス合金を用いる点にあ

  る。

 ・高速中性子を使う高速炉に適用される。

 ・鉛は融点が327度C、鉛44%-ビスマス55%合金

  は融点が125度Cであり、ナトリウム(融点が98度

  C)より融点が高い。

 ・小型化が可能である。バテリー型は50M~150MW 

  e、モジュラー型は300M~400MWe、単一型は

  1.2GWeの出力が考えられている。

 ・クローズした燃料サイクルが可能になる。

 ・出口温度は、1.2GWe出力の原子炉で750~

  800度Cと高い。

 ・燃料は窒化物あるいは金属合金である。

 ・タービンへは熱交換器が介在する。

 ・ロシアでは鉛ビスマス冷却炉が潜水艦に使われたが 

  水艦では、高速中性子は用いず、また規模が小さいので

  参考程度ではある。

 ・第四世代フォーラムで指摘されている課題は

  ①ウラン窒化物燃料の開発。

  ②高温材料の開発。

  ③鉛の環境問題。

  ④冷却材の化学的特性の検証。

  ⑤高温での鉛による構造材スチールの腐食の解明。

  ⑥鉛が不透明であるため炉内が見えなくなる。

  ⑦ビスマスの放射化。

 

溶かした鉛やナトリウムの液体を使って冷却するという技術です。不思議に聞こえますが、要は、高温にして溶かされた液体の鉛やナトリウムが原子炉でさらに加熱されてその熱を外部に運び出すというだけのことです。鉛やナトリウムは高い温度に加熱でき、その分、タービン発電の熱効率が良くなるという原理です。「珍奇」な発想だけに、技術的ハードルは高い開発項目と考えられます。

  

 

<参考資料> 

 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

世界における第四世代原発の開発(3)

 

(前ブログから続く)

2014.8.6 

第四世代原発として開発される6タイプの原発について、どのような特徴と狙いがあるのか第四世代フォーラムのウェブサイト(参考資料の1と2)を参考にして手短な説明を試みます。

 

まず、ガス冷却高速炉です。

 

(1)ガス冷却高速炉 

 ・狙いは高温で使えるガスを冷却材として用いて、炉心で

  発生した熱を高温度のガスとして取り出してタービンの

  羽根に導き、熱効率が改善された発電を実現することで

  ある。ガスとしては反応性が無く、出来るだけ中性子を

  吸収せずまた中性子を出来るだけ減速しない特性をもつ

  ガスが選ばれる。  

 ・高速中性子を用いる高速炉が使われる。

 ・ヘリウムガスを冷却媒体に用いる(熱中性子炉でも開発

  されている技術)。このヘリウムガスが炉心を通った後

  直接タービンの羽根に当たる。

 ・出口温度(原子炉から出てくるヘリウムの温度)は

  850度Cと高温に保たれる。

 ・核燃料はウラン238とプルトニウム239を炭化珪素

  SiCに混合したもの。プルトニウムを20%含む。

 ・ウラン238をプルトニウム239に変換しながら運転

  する。

 ・クローズした核燃料サイクルを目指す(核燃料を炉内で

  自給するので外部から補給が不要)。

 ・発生するアクチニド核種(とくに半減期が200万年の

  核種)を炉内で消滅させることを目指す。長寿命の核廃

  棄物の量が減る。

 ・使用済み燃料の処理と燃料再作製が同じ敷地で行われる

  ようにして、核物質の外部への輸送を省く。 

 ・熱出力は600MWt、電気出力は288MWeで設計

  され、熱効率は48%と高い。  

 ・過去に、英国、ドイツと米国で建設されたことがある。

 ・第四世代フォーラムで指摘されている課題は、

   ①燃料

   ②炉心の設計

   ③崩壊熱の除去

   ④高速中性子に耐える材料の開発

   ⑤高効率のヘリウムタービンの開発

  などである。

 

開発要素が数多くあり、そうした中で安全・信頼性並びに経済性を達成しなければならず、開発期間が長期にわたることはよく理解できます。 

 

日本では、日本原子力研究開発機構において、熱中性子を用いるヘリウム高温ガス炉が開発され、1998年に初臨界に達してきる。HTTR、高温工学試験研究炉と呼ばれ、世界で6番目の高温ガス炉となったと言われている。

 

<参考資料> 

 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

世界における第四世代原発の開発(2)

 

(前ブログから続く)

2014.8.5

第四世代の原発の開発に選ばれた6タイプの原子炉には次のように共通した要素が含まれています。

 

①現在の原発ではウランに0.73%含まれる同位体ウラン

 235以外のウラン238はそのままでは捨てられる運命

 にあるが、このウラン238をプルトニウムに変換しなが

 発電できる高速炉を開発する。これが成功すれば、ウラン

 資源で1000年を超えるような長期にわたってエネルギ

 ーを得ることが出来るようになる(夢の原発)。しかし、

 このためにはエネルギーが100万倍ほども高い高速中性

 子を使うため、原子炉材料の損傷への配慮が必要になる。

②現在の原発では熱効率が30前後であり、残りの70%の

 原子エネルギーは役に立つことなく捨て去られているが、

 原発の出口温度を出来るだけ高温にすることによって、

 タービン発電の熱効率を改善する。しかし、高温にするた

 めに、ナトリウム、鉛などの特殊な冷却材を用いるため、

 開発要素が高くなる。

③原発の世界で懸案となっている放射性廃棄物の処理をクロ

 ーズループの中で行える技術を開発する。とくに、半減期

 が百万年を超えるアクチニド核種(たとえばネプチニウム

 237は半減期が214万年と長い)の高速炉の中での消

 滅処理をどのような速度で出来るかが問われる(原子炉の

 寿命のうちにほとんどのアクチニド核種を消滅させること

 ができるかどうか)。

 

次には、選ばれた6タイプの原子炉を第四世代フォーラムのウェブサイトから抜書きします。

 

3.第四世代原発の開発に選ばれた6タイプの原子炉

2002年に100種類の原子炉コンセプトから次の6種類が選ばれた。

(1)ガス冷却高速炉

   gas-cooled fast reactor (GFR);

 

(2)鉛冷却高速炉

    lead-cooled fast reactor (LFR);

 

(3)溶融塩炉

   molten salt reactor (MSR);

   ウランあるいはトリウムでの溶融塩です。

 

(4)ナトリウム冷却高速炉

   sodium-cooled fast reactor (SFR);

 

(5)超臨界水冷却炉

   supercritical-water-cooled reactor (SCWR);

 

(6)高温炉

   very-high-temperature reactor (VHTR).

 

選ばれた6タイプのうち3~4タイプは高速中性子を利用する高速炉です。また、ガス、液体ナトリウム、液体鉛などを冷却材に使うことで高温での利用を可能にして、原子炉から発生した熱を電気エネルギーに変換する際の熱効率を高めようとしています。開発要素が高くなる中で、平行して、安全性・信頼性並びに経済性を高めなければならないというハードルの高い命運を背負います。

 

<参考資料> 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)

世界における第四世代原発の開発(1)

 

2014.8.4

世界では、第四世代の原発の開発が、2020年以降に実証炉の開発を目指して進められています。ここでは、「第四世代国際フォーラム(Gen-4 International Forum)」から2014年1月に発表された最新版の資料(参考資料1)と初版の資料(参考資料2)に沿って、どのような開発の計画なのか連載の形で見ていきます。

 

青字の文章は当ブログからのコメントです。

 

1.「第四世代国際フォーラム」とは

 ・次世代の核エネルギーの研究開発の国際的な連携を図る

  ことを目的としている。

 ・米国エネルギー省の主導の下、2000年1月に9ヶ国

  によって設立された。

 ・現在の加盟国は次の13ヶ国。

  Argentina, Brazil, Canada, China, Euratom(欧州

  原子力共同体), フランス, 日本, 韓国, ロシア連邦、

  South Africa, Switzerland, 英国、米国。

  ドイツは参加していないが、EUのEuratom(欧州原子力

  共同体)に所属している。

 ・日本は、東京電力、東芝、日本原子力研究所、東大など

  から参加している。

 

2.第四世代原発の開発の目標

  次の4つの目標が定められた。

 ・持続性(sustainability)

   閉じた核燃料サイクル(使用済み燃料を再処理して

   プルトニウムなどの核分裂性物質を取り出し再利用

   を図るサイクル)によって新たに核燃料を補給しな

   いことが持続性に重要とされる。その見地からは、

   核燃料を天然資源から補給しなくてよくなるプルト

   ニウムの増殖が検討の材料となる(参考資料2)

 ・安全性と信頼性(safety and reliability)

   福島第一原発の災害による惨事以来とくに重要であ

   り、どこまで納得のいく施策が開発・実証されて一般

   市民に受け入れられるかである。

 ・経済性(economics)

   原発への反対、持続性、安全性・信頼性と核拡散へ

   の耐性への要求が高まる時勢の中で、どれだけ経済

   性を追求できるかである。

 ・核拡散への耐性(proliferation resistance and

                            physical protection)

   プルトニウムが盗まれないコンセプトが必要になる。

   また、飛行機の衝突にも耐えるように設計されるこ

   とが開発の要件(参考資料2)となっている。

 

<参考資料> 

1.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "Technology Roadmap Update for Generation IV

   Nuclear Energy Systems"

 2014年1月

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

2.第四世代国際フォーラムのウェブサイト

   Gen-4 International Forum

  "A Technology Roadmap for Generation IV  Nuclear

   Energy Systems"

 2002年12

  U.S. DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee

  and the Generation Ⅳ International Forum

https://www.gen-4.org/gif/upload/docs/application/pdf/2014-03/gif-tru2014.pdf#search='Technology+Roadmap+Update'

 

(続く)