原発 プルトニウムの行く末(最終回)(19)

2014.8.3

当ブログで連載を続けてきた「原発 プルトニウムの行く末」の最終回(第19回)です。原発の副産物として発生する核分裂性物質のプルトニウム239は核兵器や原爆を生み出すため、その管理や処分が国際的なレベルで懸案となって久しいですが、連載を続けて来て明確になったことは、その「行く末」に対する回答が今なお確立されていないという事実です。当ブログで紹介した米国エネルギー省(DOE)からのプルトニウム処分に関する報告書に記載される苦しい現実がそのことを如実に物語っています。

 

MOX燃料化(プルトニウム酸化物とウラン酸化物を混合した燃料)による軽水炉(世界の商用原発のほとんどがこのタイプ)によるプルトニウムの消費、高速炉(ロシアのみで稼動)によるプルトニウムの消費というプルトニウム処分の方法も埋め立てという処分の方法も経済的な負担が極めて大きいと上述の米国エネルギー省の報告書で分析されております。その一方で、プルトニウムの世界の保有量は原発の稼動と共に増える一方です。

 

「核分裂性物質国際パネル」のウェブサイト(参考資料2)によると、2013年時点で、分離されたプルトニウム(separated plutonium)の世界保有量は490トン(その内、民生保有が260トン)にも達しています。なお高濃縮ウラン(HEU。90%濃縮換算)では1,390トンとなっています。

 

原発は、プルトニウム処分と核廃棄物の処分について今なお回答を見出せないままであり、このままでは原発は危険な袋小路に入ったままとなるため、プルトニウム処分と核廃棄物の処分の方法の確立は世界の原発開発の懸案として扱われるように変遷してきました。この研究開発にはさらに巨大な資金の投入が必要ですが、原発をこれまで使用しまたこれからも使用を継続する以上は、回答にたどり着かなければならない研究開発の巨大なテーマとなっています。 

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

  National Nuclear Safety Administration

  U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

2.International Panel on Fissile Materials のウェブサイト

  "Fissile Material Stocks"

  2013.7.31

http://www.fissilematerials.org/

 

3.WIREDのウェブサイト

 「プルトニウム再処理は危険で高コスト」

   2012.5.23

http://wired.jp/2012/05/23/got-plutonium-bury-it/3/

 

以上

 

 

 

 

 

ひとくちメモ 原発の出力MWtとMWe

 

2014.8.2

原子炉は核分裂で大量の熱エネルギーを発生します。この熱エネルギーがタービン技術を用いて電気エネルギーに変換されます。この熱エネルギーが100%そのまま電気エネルギーに変換されると、熱効率は100%となります。現在の原子炉(熱中性子炉)では30%前後という低い効率が通常です。

 

原子炉が単位時間当たりに発生する熱エネルギーは Wt という単位で表されます。Wはワット、t は thermal(熱)の略です。

 

熱エネルギーから変換された電気エネルギーは We という単位で表されます。Wはワット、e は electric(電気)を表します。

 

We を Wt で除した値が、その原子炉の熱効率と定義されています。

 

なお、MWt、MWeのMは百万(million)を表します。

 

以上

原発 イタリアとルーマニアの開発計画(18)

 

2014.8.1

World Nuclear Association のインターネット記事から、ESNII(European Sustainable Nuclear Industrial Initiative)下でのイタリアとルーマニアの共同の原発開発計画を手短に以下に紹介します。

 

ALFRED

液体金属鉛冷却の高速炉 ALFRED の建設に向けてイタリアとルーマニアが2013年にコンソーシャムを形成した。

・ルーマニアが建設予定地である。

・出力が 300 MWt, 120-125 MWe の実証炉である。

・建設は2017年、運転開始は2025年の可能性がある。

・MOX燃料を用いる。

・マイナーアクチニドをリサイクルできる。

・ALFRED は Advanced Lead Fast Reactor European 

   Demonstrator の略である。

 

この後続が、PROLFR(2035年)その次が産業用規模の ELFR-FOAK である。

 

注記:液体鉛は液体ナトリウムと違い、水や酸素に反応し

   にくい。また、中性子をあまり吸収しないので中性

   子の利用効率がよくなる。融点は327度Cと高い

   (ナトリウムは97度C)。

 

<参考資料>

1.World Nuclear Association のウェブサイト

 "Fast Neutron Reactors"

  June 2014

http://www.world-nuclear.org/info/Current-and-Future-Generation/Fast-Neutron-Reactors/

 

 以上

 

 

 

原発 核廃棄物 ベルギーでのプロトン加速器反応炉の研究 (17)

 

2014.7.31

ベルギーでの高速炉に関わる開発の状況を、World Nuclear Association の記事から以下に紹介します。

 

<MYRRHA>

ベルギーの原子力研究センター(SCK CEN)はMYRRHAと呼ばれる多目的研究用の反応炉を建設することを検討している。

・陽子加速器(600MeV, 2.5mA)と鉛ビスマスの破砕

 (spallation)ターゲットを備えている。

・目的は次の4通りである。

  ①加速器システムの検証

  ②核廃棄物に含まれる長寿命の放射性核種の変化の研究

  ③第四世代原子炉の燃料の研究など

  ④2020年代からは次期原子炉ALFREDの技術検証

・ベルギー、EU、欧州投資銀行などの連携で進む。

・ESNIIの下でEUが拠出する資金の40%をベルギーが 

 供出することを2010年にベルギーが承認した。

・建設は2015年、運転開始は2023年とされている。

・2010年に中国科学院が核廃棄物の処理対応で連携する

 契約に署名した。カザフスタンも契約した。

・縮小版のGuinevere ( Generator of Uninterrupted

   Intense Neutrons at the lead Venus Reactor)が

   2010年に運転を開始した。

 

加速した陽子を鉛ビスマスターゲットに照射して、中性子を発生させる方法が研究される予定となっています。この方式の利点は、核拡散の観点から民間での使用が禁止されている高濃縮ウラン235を使わずに、中性子束(パルス状の)が得られることにあります。

 

注記:ESNII=European Sustainable Nuclear Industrial

                   Initiative(欧州持続性原子力産業用計画)

 

<参考資料>

1.World Nuclear Association のウェブサイト

 "Fast Neutron Reactors"

  June 2014

http://www.world-nuclear.org/info/Current-and-Future-Generation/Fast-Neutron-Reactors/

 

以上

ひとくちメモ 原子炉の中性子

 

2014.7.30

原子炉の中では核分裂で多量の中性子が発生します。この中性子にはほとんど静止しているぐらいの中性子から極めて高速で飛ぶ中性子までが含まれます。

 

現在世界で稼動している原子炉(軽水炉など)の大部分は、このほとんど静止しているぐらいの中性子を用いるため、発生した高速の中性子を減速材に衝突させて減速させます。この減速された中性子は熱中性子と呼ばれます(なぜ、熱という言葉が使われるかというと、中性子が周りの原子と熱平衡という状態にあるためです)。このような原子炉は熱中性子炉と呼ばれます。熱中性子はウラン235を核分裂させるのに効率が良い中性子なのです。

 

一方、高速増殖炉と高速炉では極めて高速で飛ぶ中性子が用いられるため、中性子を減速せずに高速中性子のままで利用します。このような原子炉は高速中性子炉と呼ばれます。このような高速中性子は、熱中性子炉の熱中性子とくらべると、1000倍ほども高速です。

 

高速中性子はこのようにものすごいエネルギーをもった粒子ですので、それだけに高速炉や高速増殖炉は安全性の点では本質的に現在の原子炉よりも危険度が高いことが認識されています。

 

以上

ひとくちメモ 高速炉と高速増殖炉

2014.7.29

次世代の原発を担うのが高速炉あるいは高速増殖炉と言われています。この似た名称の原子炉はどう違うのでしょうか。

 

高速炉(fast reactor)も高速増殖炉(fast breeder reactor)のどちらも高速中性子を使います。使う核燃料も基本的に同じです。また、どちらも核分裂性物質を消費しながら、燃料親物質から核分裂性物質を生成します。

 

違いは、高速炉は消費される核分裂性物資よりも生成される核分裂性物質が少なくなるように設計されます。一方、高速増殖炉では、消費される核分裂性物質よりも生成される核分裂性物質が多くなるように設計されます。すなわち、高速増殖炉では核分裂性物質の増殖が起こるように設計されるということです。

 

高速炉増殖炉では、核分裂性物質が原子炉の中に蓄積されるので、取り出して別の原子炉に供給することができます。つまり、高速増殖炉は、核分裂性物質を生み出すことを目的にして設計されます。

 

ここで問題になるのが、生成されるあるいは増殖される元素です。

 

ウランを用いる高速炉/高速増殖炉ではプルトニウムが生成されます。高速炉ではその中で消費されるのですが、高速増殖炉では余分のプルトニウムが生成されるので、それを取り出すと核兵器に転用できる危険をはらんでいます。そのため、高速増殖炉の開発は核の拡散と言う観点からは極めて危険な原子炉と言えます。

 

以上

ひとくちメモ 原発から出る核のゴミ

2014.7.28

原発で使用した核燃料(使用済み核燃料と呼ばれている)に含まれる危険な放射性物質にはその寿命(半減期)が数百万年もの元素が含まれております。半減期が数百万年と長くその放射性の危険性が数百万年の間ほとんど減らないという厄介なしろものです。「核のゴミ」という名で知られていますが、家庭の台所から出るようなゴミではないことを十分に認識しておくことが必要です。

 

使用済み核燃料から取り出した高レベル放射性廃棄物(上記のような危険な放射性物質を含む廃棄物)は、地層深くに埋めることで処分をしようとする計画がありますが、処分場の選定が難しく進展がありません。

 

そのような現実の中で、高速炉で高レベル放射性廃棄物を処分しようとする開発が海外で進んでいます。現時点ではロシアがそうであり、またフランスが最も先を進んでいるようです。ベルギーも計画しています。

 

地層に埋めるのは、放射能の寿命が数百万年の廃棄物ではなく、高速炉で分解して放射能が数十年までに落とした廃棄物という考え方が現実対応策としては有効と思われます。この前提としては、高速炉において安全性や想定外事故への対応が十分に研究開発されるということに尽きます。

  

<参考資料> 

毎日新聞 社説 「核のゴミ処分」の一部

2014年7月22日(火) 朝刊

「現在、日本国内には約1万7000トンに上る使用済み核燃料がある。全国の原発では貯蔵プールが平均で7割まで埋まっている。使用済み核燃料を再処理した後の高レベル放射性廃棄物のガラス固化体も長さ1.3メートルの円筒容器にして約2500本ある。処分場選定は経済産業省所管の原子力発電環境整備機構(NUMO)が責任を負ってきたが、10年以上まったく進展がない。」

 

以上

 

ひとくちメモ 核燃料物質

2014.7.27

原子力基本法に係る政令で「核燃料物質」が定義されています。核分裂性物資(ウラン233、ウラン235とプルトニウム239)と燃料親物質(ウラン238とトリウム232)が網羅されています。

 

具体的な「核燃料物質」として政令で規制される物質は概略次のようです。

 

(1)天然ウラン(ウラン235を0.7%含む)

(2)劣化ウラン(天然ウランよりウラン235が少ないもの)

(3)濃縮ウラン(天然ウランよりウラン235が多いもの)

(4)プルトニウム

(5)トリウム

(6)ウラン233

 

以上

原発 プルトニウムの利用 フランスでの高速炉の開発(16)

 2014.7.26

主にWorld Nuclear Association のウェブサイトの高速中性子炉についての記事とスタンフォード大学関連の高速増殖炉に関する分析記事から、フランス高速炉の開発の経緯を以下にまとめます。

 

フランスでは過去に行われた高速炉/高速増殖炉の研究実績が高いことが分かります。

 

<高速炉フェニックス>

・高速炉フェニックスは1973年から2009年まで

 36年間(改造の数年間を除いて)稼動した。

 

<高速増殖炉スーパーフェニックス>

・ヨーロッパ内での共同の高速増殖炉プロジェクトであった。

・将来に起こりうる石油の高騰やウランの減少という事態に

 ヨーロッパが対応する対策として、高速増殖炉スーパーフ

 ェニックの稼動が1986年に開始された。

・出力は1.25GWeと巨大であった(注記:普通の規模

 の数倍以上)。

・高速増殖炉はプルトニウムを増殖して、原子力技術の寿命

 を飛躍的に延長できる「夢」の原子炉ではあるが、プルト

 ニウムを生産するため、世界の軍事的な懸念が拡大せざる

 を得ないという不幸な副作用が生まれる運命を背負った

 「夢」の原子炉であった。

・一般市民からの反発と抗議がすざましかった。小型のロケ

 ットが原子炉の建物に打ち込まれたほどであった。

・政治的な理由から、高速増殖炉の実証炉スーパーフェニッ

 クスは1998年に閉鎖された。

 

<アストリッド Astrid>

・2006年にフランス政府からフランス原子エネルギー委

 員会(CEA;French Atomic Energy Commision)に対

 して2種類の高速中性子炉を開発する依頼が出された。

・その1種類は、フランスが45年間の稼動実績をもつナト

 リウム冷却型の改良版であった。もう1種類は革新的なガス

 冷却方式の原子炉であった。どちらも、「第四世代」の原子

 炉の範疇に入るものである。

・2006年にナトリウム冷却型のアストリッド Astrid (

   Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial

   Demonstration) が推奨された。その理由は、Astrid はアク

 チニド元素(注記:半減期が数百万年の元素が原子炉で生成

 され、廃棄物処理が難問となっている)を消費する能力が

 いためである。

・アストリッドは高速増殖炉というよりは、高速炉である。

 自分で必要な核分裂性物質を自ら生成できる(self-

   generating fast reactor)。

・核拡散への耐性(proliferation resistance)がある(注

 記:この点は国際政治の観点からは死活問題であり、原子

 炉開発から抜くことができない項目である)。

・アストリッドは電気出力が600MWeの実証炉である。

・フランスのマルクール(Marcoule。注記:核施設が集中す

 る地域)に建設される予定となている。

・これが成功すれば、2050年頃から出力が1.5GWeの

 ナトリウム冷却炉が稼動することになる。この原子炉は、

 それまでにフランスで蓄積される50万トンの劣化ウランを

 使用することになる。また、使用済みMOX燃料に含まれる

 プルトニウムを消費できることになる。

・2012年に、設計開始の指示がでた。

・2014年に日本は、アストリッドの開発を支援する約束を

 した。フランスは日本がもんじゅでアストリッドの燃料の

 験をするよう求めた。 

・2019年に、建設に関する最終の決定が下される。

・建設費用の推定は、43億ユーロ(5500億円程度)とな

 っている。その大半はEUから借入金や補助金で調達される。

・補助金はたとえばECのESNII(European Sustainable

   Nuclear Industrial Initiative)から来る。

 

<アレグロ Allegro>

・フランス政府が開発を依頼したもう1つの原子炉で、

 ガス冷却型の高速炉である。

・実験炉が2025年までに想定されている。

・チェコ、ハンガリーとスロバキアが共同開発に興味を

 示している。

・ESNIIの Euratom project でもある。

 

フランスがいかに高速炉/高速増殖炉に力を注いで来たかが良く分かります。初期の頃はプルトニウムの増殖が目当てであり、現在は原子炉で発生する長寿命の放射性廃棄物の処理に関心が移った原子炉の開発の計画になってきています。

 

<参考資料>

1.World Nuclear Association のウェブサイトから

 "Fast Neutron Reactors”

  June 2014

http://www.world-nuclear.org/info/Current-and-Future-Generation/Fast-Neutron-Reactors/

 

2.スタンフォード大学のウェブサイトから

 "The Superphenix Fast-Breder Reactor"

   March 30, 2011

http://large.stanford.edu/courses/2011/ph241/abdul-kafi1/

 

以上

 

ひとくちメモ 核分裂性物質

2014.7.24

原子炉は核分裂という原子核に係る特殊な現象を利用して熱エネルギーを取り出して、その熱を用いて火力発電と同じように発電して電気を起こします。

 

熱中性子を吸収してこの核分裂を起こす物質あるいは核種を核分裂性物資(fissile material)あるいは核分裂性核種(fissile nuclide)と呼びますが、天然に存在する核分裂性物質あるいは核分裂性核種はウラン235だけです。これが、原子炉や原爆を可能にします。

 

話が複雑になるのは、プルトニウムとトリウムの存在です。ウラン235の同位体であるウラン238(これは核分裂性物質あるいは核種ではない)が中性子を吸収するとプルトニウム239に変わります。このプルトニウム239は核分裂性物質あるいは核種なのです。そのため、ウラン235と同じように原子炉や原爆などの核兵器に使われます。

 

一方、ウラン238と同じようにトリウム232も核分裂性物質あるいは核分裂性核種ではありませんが、中性子を吸収するとウラン233に変わります。このウラン233は核分裂性物質あるいは核種なので、原子炉に使うことができます。また原爆にも使うことは原理的には可能です。

 

ですから、核分裂性物質のウラン235だけでなく、核分裂性物質を生み出すウラン238もトリウム232も核兵器の製造と言う観点から厳しい規制が必要になります。

 

なお、ウラン238とトリウム232は、以前にブログで説明したように、燃料親物質(fertile material)と呼ばれます。

 

以上

 

 

 

 

 

 

原発 プルトニウムの利用 インドでの高速増殖炉の開発 (15)

2014.7.25

インドでは高速増殖炉(fast breeder reactor)の試験炉(FBTR: Fast Breeder Test Reactor。熱出力は40MWt)を1985年に臨界に至らしたことが知られています(日本の高速増殖実験炉である常陽は1977年に臨界に到達した)。

 

インドにおける高速増殖炉の実証炉PFBRの割合最近の開発状況に関する記事(参考資料1)から、その内容を要約して以下に紹介します。

 

・出力が500MWe という商用規模の高速増殖炉の建設が

 2004年に開始された。プロトタイプ(実証)機である。

 PFBR: Prototype Fast Breeder Reactorと呼ばれている。

・2010年に運転開始の予定であったが、遅れて2014

 年に運転開始の見込みになっている(日本の高速増殖炉の

 原型炉もんじゅは1991年に運転を開始した)。

・冷却は金属ナトリウムを用いる。

・一号機ではMOX燃料(ウラン酸化物とプルトニウム酸化

 物の混合)が使われる。

・後続機では余剰のプルトニウムとウラン233(注記:ウ

 ラン233はトリウムから生成される核分裂性物質)を使

 う。インドは国内に豊富に埋蔵するトリウムを核燃料とし

 て利用できるようになる。

・高速増殖炉は、消費するよりも多くの核分裂性物質を生成

 する原子炉である。しかし、ウランの埋蔵量が予想よりも

 多いことが分かり、高速増殖炉への興味は一時世界的には

 減退した。その後は、高速増殖炉が高レベル廃棄物を処理

 できることとウランが減少してきたため、高速増殖炉への

 興味が世界的に持ち直した。

・高速増殖炉は技術的なリスクが従来の原子炉よりも高い。

 その理由は、動きの速い高速中性子を使うため、予期しな

 い変化が従来の原子炉よりも速く起こる。また、制御が困

 難な反応が起こる可能性がある。さらには、ナトリウムは

 扱いが厄介である。

 

インドは、トリウムの埋蔵量が豊富なため、トリウムを高速増殖炉で使用できるようになれば、核燃料の自給自足が可能になるという展望があり、その可能性を追求できる国です。

 

インドは、プルトニウムを増殖する能力のため核拡散で問題となる高速増殖炉(日本のもんじゅも高速増殖炉)を現在開発する数少ない国です。

 

<参考資料>

 

1.Institution of Mechanical Engineers(ロンドン)の

  ウェブサイト

    "Indian fast breeder reactor set for 2014 switch on"

      July 5, 2013

http://www.imeche.org/news/engineering/indian-fast-breeder-reactor-set-for-2014-switch-on

 

以上

 

 

 

 

 

原発 プルトニウムの利用 中国での高速炉の開発(14)

2014.7.23

中国における高速炉の開発の現況です。

 

・1965年に高速炉の研究開発がスタートした。

・2003年にロシアの実験機械製造設計局OKBM

Afrikantov によって小規模の高速炉(65MWe)の実験炉

 (CEFR)が設計/建設された。

・2機の800MWe の高速炉を設計する契約がロシアと中国

 の間で2009年に交わされた。ロシアのAtomenergopoekt

が中国のためにBN-800の設計を開始している。この原

 子炉はCDFR(Chinese Demonstration Fast Reactor)

 と呼ばれる。

・2014年4月に、福建省三明(サンメイ)市に中国初の商

 用の高速炉を建設する合弁会社が設立された。中国核工業集

 団公司、福建省投資&開発集団公司と三明市との間の合弁会

 社である。

・第四世代クライテリアのCDFR1200MWe が2028

 年に計画されている。ウランープルトニウムージルコニウム

 を燃料に用いる。増殖比は1.5以下と高い。マイナーアク

 チ二ドなどの消費を想定している。

 

中国も高速炉の実用化に向けて進んでいます。ロシアからの技術供与が今後どのように進むのか見ものです。

 

<参考資料>

1.World Nuclear News のウェブサイト

 "Joint venture launched for Chinese fast reactor”

http://www.world-nuclear-news.org/C-Joint_venture_launched_for_Chinese_fast_reactor-3004104.html

 

2.World Nuclear Association のウェブサイト

 ”Fast Neutron Reactors"

http://www.world-nuclear.org/info/Current-and-Future-Generation/Fast-Neutron-Reactors/

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウムの利用 ロシアでの高速炉の開発 (13)

2014.7.22

原子力発電の将来を担うと期待が高い高速増殖炉/高速炉について、世界で最も実用化に近づいているロシアの現況を確認します。

 

ロイター(2014年6月27日付け)の報道記事によると、ロシアは高速炉BN-800の臨界状態に到達したということです。

 

ここではロシアのBN-800について、ロイターの記事とBN-800を建設したロシアの国営原子力会社、ロスアトム社(Rosatom)が関連する公表記事(2011年発行)に基づいて、以下に情報を簡潔にまとめます。

 

<ロシアの高速炉BN-800>

 ・2014年6月ごろに臨界に達した。10月には設定の

  電気出力880MWになる。商用の開始は2015年前

  半に予定されている(ロイターの記事)。

 ・発電、プルトニウムの処分や長寿命の超々ウラン元素(

  supertransuranic)の処分などが可能であり用途が多様

  である。

 ・兵器グレードのプルトニウムを処分できる。

 ・運転中に生成されたアクチニド元素(注記:半減期が数

百万年と長い元素がある)はプルトニウムを含めて取り

  出さずに原子炉の中で消費される。

 ・想定外の事故(beyond-design-basis accidents)への

  安全対応がとられている。

 ・飛行機の墜落(飛行速度360km/hourで5.7トンの飛行

  機)の衝撃に耐える。

 ・核燃料は炉心がPuO2-UO2、ブランケットが劣化ウラン

  (注記:天然ウランの0.7%よりウラン235の含有

  量が少ない)である。

 ・炉心は40年間に20回リサイクルされる。

 ・熱効率は39.35%と高い。

 ・冷却はナトリウムを用いる。一次と二次がナトリウム、

  三次は水蒸気(注記:蒸気発電のため)である。

 ・ナトリウム流量が50%に減ると、3本の中性子吸収棒

  が落下して核分裂を止める仕組みが設計されている。

 ・高速増殖炉BN-1200は2020年に建設が予定さ

  れている8機が2030年までに建設される(ロイタ

  ーの記事)。

 

ロシアで運転がスタートしたばかりの高速炉BN-800では、

 ① 他の原子炉からの放射性廃棄物をBN-800で消費

  すること、

 ② 自らが出す放射性廃棄物はその量を抑えること、

 ③ 安全への対応を最大限図ること

が、設計の段階で検討され取り入れられています。これは、「もんじゅ研究計画」が2013年9月に提唱した内容と基本は同じです。高速増殖炉/高速炉の開発において世界の関心がどこに推移して来ているかが良く分かります。

 

BN-800はロシアと米国との兵器グレードの余剰プルトニウムの処分に関する契約(PMDA契約)においては、すでにブログ(7月11日)で紹介したように、ロシアは高速炉で処分をすることに次のように変更しています。

 2010年に、核セキューリティサミットでヒラリー・ク

 リントン国務長官とロシアのラブロフ外務大臣が、ロシア

 の要請に沿って、PMDA契約を変更して、ロシアはプル

 トニウムの処分を高速炉行うという議定書に合意した。

この高速炉と言うのは、いうまでも無くBN-800ということになります。

 

また、ロシアは中国に高速炉の技術を供与する契約をしています。この件については、中国の高速増殖炉/高速炉の現況を扱うブログを書く際に触れます。

 

原発は、国際的な動き、連携、対処の下で動いており、日本だけの動きで原発を見ることは全くの片手落ちになることが分かります。

 

また、世界の将来の膨大なまた長期のエネルーギー源となる可能性を秘めているが技術的な難易度が高い高速増殖炉/高速炉の実用化に世界が向かっていることは、止められない現実です。

 

<参考資料>

1.ロイターの記事

  ”Fast reactor starts clean nuclear energy era

   in Russia”

  2014年6月27日付け

http://rt.com/news/168768-russian-fast-breeder-reactor/

 

2.ロシアのATOMENERGOPROEKT のウェブサイト

  BN-800 NPP

  2011年

http://www.spbaep.ru/wps/wcm/connect/spb_aep/site/resources/6d77898047832831a7a9ef9e1277e356/BN-800_2011_EN_site.pdf#search='BN800'

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウム利用 高速増殖炉/高速炉の海外での開発状況 (12)

2014.7.21

前回までシリーズで、プルトニウムに関連して、日本での高速増殖炉の開発の状況を追いました。プルトニウムを増殖する夢の原子炉と言われてきたあるいは高速増殖炉は海外ではどのような現状なのでしょうか?

 

文部科学省のもんじゅ研究計画作業部会が2013年9月に発表した「もんじゅ研究計画」の中に、「国内外の高速増殖炉/高速炉を取り巻く状況と動向」という表題で、海外における高速増殖炉/高速炉の開発状況が言及されています。エネルギー源としての役割に期待する国々と放射性廃棄物の処理に注目する国々とに分けられています。その内容を手短にまとめると次のようになります。

 

<「もんじゅ研究計画」から>

 

1.エネルギー源としての役割に期待する国々

<ロシア>

 ・原型炉(BN600)を1980年から運転中。

 ・実証炉(BN800)を2014年に運転開始の予定。

 ・商用炉(BN1200)を2025年頃に運転開始の

      予定。

 

<中国>

 ・ロシアから原型炉の技術を導入の予定。

 ・実証炉を2025年頃に建設の予定。

 

<インド>

 ・実験炉(FBTR)を1985年から運転中。

 ・原型炉(PFBR)を2014年に運転開始の予定。

 ・実証/商用炉を2025年ごろに建設の予定。

 

注記:

FBTR: Fast Breeder Test Reactor

PFBR: Prototype Fast Breeder Reactor

 

現在では、ロシアが高速増殖炉/高速炉の開発をリードしています。また、中国とインドはこれから継続する経済発展のために原発によって膨大なエネルギー源を確保することが国策となっていると考えられます。

 

2.放射性廃棄物の処理に注目する国々

<フランス>

 ・増殖技術はすでに習得済み

 ・原型炉(フェニックス)と実証炉(スーパーフェニック

  ス)などで豊富な経験を有する。

 ・廃棄物対策を主眼に置き、2025年頃に新たな実証炉

  (ASTRID)の運転開始を目指して開発中。 

 

<米国>

 ・世界での初期の開発を先導した。

 ・実験炉の運転経験は豊富。

 ・1977年に、核不拡散政策の変更により、商業化を延

  期した。

 ・現在は、国際協力の下で、廃棄物対策も考慮に入れた研

  究開発を実施中。

 

ロシア、中国、インドの意図は理解がし易いのですが、先進国のフランスと米国の真意はやや分かりにくいと思われます。さらに突込みが必要です。

 

3.多国間の国際協調

「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF; The Generation Ⅳ International Forum)が設立されており、ナトリウム冷却炉の安全設計クライテリア(SDC; Safety Design Criteria)が検討されています(注記:ナトリウム冷却は高速増殖炉/高速炉の標準の冷却技術となっています)。

 

(注記:同GIFフォーラムには米国、日本、英国、韓国、南アフリカ、フランス、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、スイスの10か国が参加しています。)

 

次回から、当ブログでは高速増殖炉/高速炉の開発に関する現況を各国ごとに調べて行きます。

 

 

<参考資料>

 

1. 文部科学省のウェブサイト

「もんじゅ研究計画」平成25年9月

 原子力科学技術委員会もんじゅ研究計画作業部会

 (委員は9名からなり、そのうち7名が京大、東大、阪大と

  東北大学の教授あるいは准教授)

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/02/25/1344598_1_1.pdf

 

以上

 

 

 

原発 高速増殖原型炉「もんじゅ」の開発目的の多重化(変遷)(11)

2014.7.20

1983年に着工し1兆円を超える巨額の国家資金を投入してきた高速増殖炉の原型炉である「もんじゅ」は、技術的に懸案だった金属ナトリウム冷却で1985年に事故を起こしたことなどに加えて、2012年には1万点を超える機器の点検漏れ問題が発覚し2013年に原子力規制委員会(環境省)から運転停止を命じられ、過去20年間の運転期間の累計はわずか220日(福井新聞オンライン:2014年4月5日)という事態のまま操業を停止しています。もんじゅの目的である高速増殖炉の性能と信頼性を技術的に確認することに赤信号がともったままと言っていいでしょう。

 

この「もんじゅ」の今後あるいは日本の高速増殖炉の開発をどうするかと言う命題が、とくに東日本大震災による福島第一原発の惨事以来、重くのしかかって来ています。

 

ここでは、もんじゅ研究計画作業部会(文部科学省の原子力科学技術委員会の下部)が2013年9月に公表した「もんじゅ研究計画」の内容に沿いながら、1956年以来の高速増殖炉開発あるいはもんじゅの目的が当初の単一の目的から3つの目的にまで多重化(あるいは変遷)して来ていることを以下に確認しておきます。

 

(1)1956年(昭和31年)

「もんじゅ研究計画」によると、原子力委員会の「原子力研究・開発及び利用に関する長期計画」における高速増殖炉の目的は次のようです。

 ・高速増殖炉の目的は、原子力燃料資源の有効利用とエネ

  ルギーコストの低下、とされています。

 ・正確には次のように表現されています。

 「最終的に国産を目標とする動力炉は、原子力燃料資源の

  有効利用ひいてはエネルギーコストの低下への期待と言

  う見地から増殖動力炉とする」。

 ・これが日本での高速増殖炉(増殖動力炉)に向けた始ま

  りと言えそうです。

 ・具体的には、高速増殖炉は、軽水炉では燃えにくいウラ

  ン238を燃料に変換して利用できるため、ウラン資源

  の利用可能年数を、軽水炉のみ利用した場合の約100

  年から、数10倍の約3,000年以上に延長可能と認識

  されています(「もんじゅ研究計画」から引用)。

 

(2)1981年(昭和56年)

原子力白書(昭和56年版)によると、もんじゅの目的は次のようです。

 ・もんじゅの目的は、高速増殖炉の性能と信頼性を技術的

  に確認することです。単一の目的となっています

 ・正確には次のように表現されています。

 「実験炉・常陽に続く原型炉・もんじゅは、その設計・

  建設・運転の経験を通じて発電プラントとしての高速

  増殖炉の性能及び信頼性を技術的に確認することを目

  的としているものであり、高速増殖炉の開発に欠くこ

  とのできない重要なステップである」。

 

(3)2005年(平成17年)

原子力委員会が平成17年に策定した原子力政策大綱によると、高速増殖炉は次のように記述されています。

 ・高速増殖炉の目的は、長期的なエネルギーの安定供給と

  放射性廃棄物の有害度の低減、とされました。放射性廃

  棄物が新たに加わり、目的は2重になりました。

 ・正確には次のように表現されています。

 「長期的なエネルギー安定供給や放射性廃棄物の潜在的

  有害度の低減に貢献できる可能性を有する」。

 ・具体的には、次のような説明があります。

 「高速増殖炉/高速炉は、軽水炉と比較して発電時の

  熱効率が高く、また、軽水炉では燃えにくいマイナ

  ーアクチ二ド(MA)も、高速中性子を用いること

  で効率よく燃やすことができる。そのため、高速増

  殖炉/高速炉サイクルの実現により、ウランやプル

  トニウムに加えてMAも燃焼し燃料サイクル内に閉

  じ込め、廃棄物の減容・有害度低減が可能となる」。

 

注記:減容とは、なんらかの処理を行い廃棄物の容積を

     減らすことを言います。ここでは、原子炉内での

     処理(核化学反応)によって、廃棄物の容量を減

     らすことを意味します。

 

(4)2012年(平成24年)

「もんじゅ研究計画」によると、福島第一原発の惨事の後、民主党政権下で原子力政策を含むエネルギー政策の見直しが行われ、「もんじゅ」については、概ね、

 ①高速増殖炉の成果を取りまとめる、

 ②廃棄物の減容と有害度低減の研究を行う、

 ③国際的な協力の下で行い、期限を区切り、研究を終了する

とされました。

 「もんじゅ研究計画」での正確な表現は次のようです。「国際的な協力の下で、高速増殖炉の成果を取りまとめ、廃棄物の減容及び有害度の低減等を目指した研究を行うこととし、このための年限を区切った研究計画を策定、実行し、成果を確認の上、研究を終了する」。

 

(5)2013年(平成25年)

「もんじゅ研究計画」によると、第二次安倍内閣が発足し、前政権のエネルギー・環境戦略をゼロベースで見直すことになりました。

 もんじゅ研究計画作業部会は、9月に、当「もんじゅ研究計画」を新たに取りまとめました。その中で、もんじゅの目的は次のように3重となりました。

 ① 高速増殖炉の成果の取りまとめを目指した研究開発

 ② 廃棄物の減容・有害度低減を目指した研究開発

③ 高速増殖炉/高速炉の安全性強化を目指した研究開発

    

廃棄物の減容・有害度の低減については、すでに当ブログで紹介した米国のGE日立のPRISMという高速炉が先行しておりお手本になりそうです。米国エネルギー省からの報告書においても、当ブログで紹介したように、GE日立のPRISMがプルトニウム処理に関して取り上げられていました。高速増殖炉/高速炉の安全性強化については、福島第一原発の惨事を契機として、原子炉のシビアアクシデント(SA)への対応が厳しく要求されるようになったことによるものであることは、「もんじゅ研究計画」の中で触れられています。

 

もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構(前の動燃)は、1万点を超える点検漏れに関して原子力規制委員会から出された運転停止の命令に対して、日本の原子力の命運を定める開発に責任を持つ組織としての体質改善を進めることができるのかは国民として注視しなければならないところです。

 

<参考資料>

1. 文部科学省のウェブサイト

「もんじゅ研究計画」平成25年9月

 原子力科学技術委員会もんじゅ研究計画作業部会

 (委員は9名からなり、そのうち7名が京大、東大、阪大と

  東北大学の教授あるいは准教授)

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/02/25/1344598_1_1.pdf

 

2.原子力白書 昭和56年度版 原子力委員会発行

 

以上

 

 

 

原発 日本でのプルトニウムの利用開発 もんじゅ(10)

2014.7.19

当ブログでは、日本におけるプルトニウム利用の研究開発に係る歴史について手短におさらいをしています。

 

前回と前々回に新型転換炉「ふげん」と高速実験炉「常陽」を扱いました。今回は日本の原発開発における象徴であり主役である高速増殖原型炉「もんじゅ」です。

 

3.高速増殖原型炉「もんじゅ」

・「もんじゅ」の目的は、原子力白書(昭和56年版)による

 と次のようである。

 「実験炉・常陽に続く原型炉・もんじゅは、その設計・建設

  ・運転の経験を通じて発電プラントとしての高速増殖炉の

  性能及び信頼性を技術的に確認することを目的としている

  ものであり、高速増殖炉の開発に欠くことのできない重要

  なステップである。」

・高速増殖炉の国産化を目指した。

・高速増殖炉はウラン238をプルトニウム239に変換しな

 がら増殖する原子炉であり、実現できれば、ウラン資源を最

 大限活用できる「夢の原子炉」となる。

・金属ナトリウムで冷却する高速中性子炉である。

・増殖率は1.2で設計されている。

・もんじゅは建設費が5,933億円(そのうち政府支出が

 4,504億円)、人件費などを含めた費用総額は約1兆

 810億円に上ると言われている。

・着工は1983年であった。

・1994年に初臨界に達したが、その1年8ヶ月後にナトリ

 ウム洩れの事故を起こした。過去20年間の運転期間の累計

 はわずか220日であった(福井新聞オンライン:2014年

 4月5日)。

・2010年に、原子炉容器内に炉内中継装置(重さ3.3トン)

 の落下事故が発生した。長期の運転休止となった。

・2012年に1万点ほどの機器の点検漏れ問題が発覚し、

 2013年5月に原子力規制委員会から無期限の運転禁止の

 命令を受けた。

 

過去60年ほどに渡る日本での原子力発電の研究開発のエースとなり画期的なウラン燃料サイクルを確立するための技術基盤を作り上げるはずであった高速増殖原型炉「もんじゅ」は、金属ナトリウム漏れなどの事故のため、ほとんど稼動されずに20年ほどの時間が無駄に過ぎ去りました。

 

 

<参考資料>

 

1.原子力白書:昭和56年版

  原子力委員会(内閣府)の発行

 

以上

 

 

 

原発 日本でのプルトニウムの利用 常陽(9)

2014.7.18

当ブログでは、日本におけるプルトニウム利用の研究開発に係る歴史を手短におさらいをしています。

 

前回は新型転換炉「ふげん」を扱いました。今回は高速実験炉「常陽」です。

 

2.常陽(高速実験炉)

・原子力白書(昭和44年版)によると、目的は、「実験炉

 は、わが国で初めてのナトリウム冷却高速炉であり、その

 目的は設計、建設、運転を通じて、高速増殖炉に関する技

 術的経験を得るとともに、完成後は燃料、材料の照射施設

 として利用するものである。」と定められた。 常陽はこの

 後に建設された高速増殖炉「もんじゅ」の技術上の準備で

 あった。

・10年間に2000億円の資金を投入する予定で開始され

 た(参考資料2)。

・日本で最初の高速中性子を用いる高速中性子炉であった。

・着工は1971年、臨界は1977年に達した。

・燃料は、プルトニウム酸化物とウラン酸化物を混合した

 MOX燃料であった。

・冷却は金属ナトリウムで行われた。

・炉心は最初のマーク1で熱出力が75MWtであった。そ

 の後、マーク3では140MWtまで高度化された。

・マーク1の使用済み燃料から取り出されたプルトニウムが

 マーク1に装荷されるという燃料サイクルの実績が達成さ

 れた。

・20年間、安定、安全に運転されたと言われる。

現在は休止中である。これは、2007年に燃料交換機能

 の一部阻害という事故(原子炉は停止中)を起こしたため。

・2009年に「常陽」の必要性について報告書が「常陽」

 利用検討委員会から出された。

燃料交換機能の事故からの復旧作業を2014年5月22

 日に開始し、10月までの完了を目指している。

 

高速増殖炉は、軽水炉からの使用済み燃料にそのまま残ってしまうウラン238を核分裂性物質のプルトニウム239に転換しかつ増殖(使ったウラン燃料の量以上にプルトニウムを生み出すこと)することが目的の原子炉です。参考資料2によると、このウラン238からプルトニウム239への転換比が

 軽水炉:約0.6

 新型転換炉:約0.8

 高速増殖炉:1.1~1.4

と言うことです。「常陽」の技術開発成果が高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」の設計に引き継がれます。

 

 

<参考資料>

 

1.原子力白書 昭和44年版、原子力委員会

 

2.独立行政法人 日本原子力研究開発機構(前動燃)の

  ウェブサイト

   高速実験炉「常陽」の建設記録

  (ケーブルぺネトレーション)

   1975年1月

   動力炉・核燃料開発事業団 大洗工学センター

http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/PNC-TN964-75-02.pdf#search='%E5%B8%B8%E9%99%BD%E3%80%81%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E8%B2%BB%E7%94%A8'

3.「常陽」利用検討委員会

  2009年4月発行

(独)日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」の役割

 と今後の必要性に関する検討報告書

http://www.jaea.go.jp/04/o-arai/joyo/joyo-advisory/reported/20090421.pdf

 

4.日本原子力研究開発機構、大洗研究開発センターのウェブ

  サイト

http://www.jaea.go.jp/04/o-arai/joyo/press.html

 

以上

 

 

原発 日本でのプルトニウムの利用 ふげん(8)

2014.7.17

日本において、核燃料のプルトニウム239を商用の原子力発電にMOX燃料として使用する計画が進められています(もっとも現在は、東日本大地震の災害における福島原発の破壊のあと、原子炉の稼動が全国的に停止しているため、実使用は進んでいない状況ですが)。また、プルトニウム利用の目玉であった高速増殖炉「もんじゅ」での発電の開発は、問題を起こし現在停止の状態です。

 

当ブログでは、日本におけるプルトニウム利用の研究開発に係る歴史を手短におさらいをします。

 

原子力白書によると、日本での原子力の開発は、1955年(昭和30年)に着手されています。原爆の被災からまた第二次世界大戦での敗戦からまだあまり時間が過ぎていない時期という印象が付きまといます。この点に関しては、原子力白書(昭和60年版)の記載を以下に転載します。

 

原子力白書(昭和60年版/1985年版):

「我が国の原子力研究は,第2次世界大戦により約10年間空白があったが,昭和26年の日米講和条約締結の頃から,学界のなかにおいて原子力研究を再開したいとの動きが現れた。しかしながら,一方においては,原子力研究は核兵器の製造につながる危険性があるとしてこれに反対する意見も強く,論議がたたかわされてきた。昭和28年の国連総会において,米国アイゼンハウアー大統領が原子力の平和利用を提唱した。その提唱は,国内における論議にも大きな影響を与え,我が国においても原子力の平和利用を積極的に推進し,これを経済社会の発展に活かすべきであるとする気運が高まった。こうした気運を背景として,昭和29年度予算において,2億5千万円の原子力予算が計上された。この予算化を契機として,我が国の原子力開発のあり方及びその体制整備についての検討が国会及び政府部内で本格化し,また,日本学術会議は,昭和29年4月原子力平和利用に関し,民主,自主,公開のいわゆる原子力研究の三原則を決議した。」

 

日本においては、消費された以上のプルトニウム核燃料を生成できる画期的な高速増殖炉(原子炉の中でウラン238を核分裂性物質のプルトニウム239に増殖して核燃料を獲得する「夢」の方式)を開発し商業化することを国のプロジェクトとして推進する方針が1966年(昭和41年)に原子力委員会によって決定されました。ただ、この開発は大規模で難易度が高く長期の時間を要するという当初からの見通しのため、中間策として、天然ウランをそのまま核燃料として利用できる新型転換炉を早期に実用化して高速増殖炉が商業化されるまでの期間をカバーするという新型転換炉の開発が実施されました。ただ、この新型転換炉の実験炉は完成し稼動したのですが、業界から経済性の問題がクローズアップされ開発が次の段階である実証炉に進むことはありませんでした。新型転換炉では、天然ウランを燃料として装荷して原子炉の中でウラン238をプルトニウムに転換しながら発電する開発が目標でした。

 

また、新型転換炉では、平行して、772本のMOX燃料が装荷されその健全性が実証されたと言うことです。この技術では、商用の原子炉から出る使用済み燃料を再処理して、ウラン238とプルトニウム239を分離回収し、この2成分を混合してMOX燃料を製造して、このMOX燃料を商用の軽水炉で利用します。この計画は現在、生きています。なお、この方式では、使用済み燃料に含まれる少量のプルトニウムを回収して核燃料に利用するため、ウラン238の有効利用と言う点ではその程度が大変に限られます(つまり、ウラン238の大半が使われないままで終わることになります。日本原燃のウェブサイトによると、使用済み燃料にはプルトニウムは1%ほどの微量しか含まれず、ウラン資源の大半はプルトニウムに転換されないままで残ります)。

 

この後、プルトニウム利用技術の開発のためにこれまでに建設された新型の3機の原子炉(「ふげん」、「常陽」と「もんじゅ」)の歴史をおさらいします。

 

1.新型転換炉「ふげん」(Advanced Thermal Reactor)

 ・昭和42年版の原子力白書によると、新型転換炉の目標   

  は次のように記述されている。「新型転換炉の開発につ

  いては,天然ウランを燃料に用いる重水減速沸騰軽水冷却

  型炉の開発を目標として,初期装荷燃料として微濃縮ウラ

  ンまたはプルトニウム富化天然ウランを用いる電気出力

  約20万キロワット程度の原型炉を49年ごろ臨界に達せし

  めることを目途としている」。

 ・当時の動燃事業団(動力炉・核燃料開発事業団。現在の

  日本原子力研究開発機構)が運営に当たった。

 ・建設費は685億円。そのうち半額を民間が負担した。

 ・着工:1970年、運転開始:1978年。

 ・プルトニウムを1.85トン使用した。

 ・2003年に運転が終了された。

 ・2026年に原子炉本体の解体撤去の予定。

 ・重水炉(重水は軽水に比べて中性子の減速性能が低いが、

  中性子吸収は軽水の1/300と小さいため、濃縮をす

  ることなく天然ウランを使用できる利点が大きい)。

 ・核燃料は、MOX燃料。天然ウラン。微濃縮(1.5%)

  のウラン。

 ・次の段階である実証炉の建設は中止された。1995年3月に

  建設費の積算見積もり等の見直しの結果、建設費が当初見

  積もりの3,960億円から5,800億円に、また、発電原価は

  軽水炉の約3倍に大幅に増加することが判明したため、原

  子力委員会は実証炉の中止を決定した。  

 ・実証炉建設の計画が中止されたという事実から、当初の目

  的であった天然ウランを使える原子炉の実現に至らなかっ

  たことが分かる。ただしMOX燃料の実用化という成果を

  もたらした。

 

昭和40年版の原子力白書の一節に新型転換炉の趣旨と目的が記述されており、次に転載します。

「新型転換炉は,高速増殖炉に比し早期に実用化することが期待され,在来型炉に比し核燃料の効率的利用,多用化等の観点から有利であり,経済性のあるものを原子力発電計画にくみいれることは,きわめて有意義であると考える。したがって早急にこれを実用化することを目途として,海外技術を有効に吸収しつつ,適切な自主的開発に努めるべきである。新型転換炉のうち,早期実用化の要請をみたし,かつ,天然ウランを使用しうるものは,重水減速沸騰軽水冷却炉と重水減速炭酸ガス冷却炉であると考えられるが,軽水炉の技術と経験の活用が可能であり,資本費低減の可能性がある前者をまず動力炉開発プロジェクトの対象としてとりあげる。開発スケジュールとしては,40年代のなかばまでに原型炉の建設に着手することとする。」

 

新型転換炉「ふげん」は、当初の目的を達成したのかどうかですが、当初の主たる目的である「天然ウランを燃料に用いる重水炉

の開発」という点では、実証炉が中止されたため、全体の開発計画としては、当初の目的は果たせなかったということなのでしょう。ただしMOX燃料の実用化を導いたという成果をあげることができました。

 

なお、カナダは天然ウランを燃料に使用できる重水炉のCANDU炉を商業化し、インド、中国、韓国などに輸出しています。

 

原子力委員会がCANDU炉導入の問題について、次のような見解を出しています(昭和54年10月2日):

「CANDU炉についていえば、軽水炉の発電規模がすでに我が国の全発電規模の10%を越え、仮に今からCANDU炉の導入を図ったとしても、今後相当の期間にわたり原子力発電の主流は軽水炉であること、ウラン濃縮、再処理及び新型転換炉の技術開発も着実に進められていることなどに鑑み、CANDU炉の利点を積極的に活用しなければならない事態は、現時点においては予測されないと判断している。」

 

注記:原子力白書(平成10年版)から動燃について以下を転載します。「1997年3月、動燃東海事業所アスファルト固化処理施設において火災爆発事故が発生し、さらに、事故に関して虚偽報告がなされるなど事故は不祥事に拡大した。こうした事故の発生及びその後の動燃の対応に関し、1995年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」事故の教訓が全く活かされなかったとの厳しい批判を受け、これらの一連の事故及びその後の不適切な対応の結果、原子力に対する国民の不安感、不信感が高まった。
 こうした状況を踏まえ、事故の当事者たる動燃はもとより科学技術庁においても深い反省に立ち、動燃の抜本的改革が急務であるとして、1997年4月、「動燃改革検討委員会」を発足させ、動燃改革の検討に着手した。同委員会は、1997年8月に報告書「動燃改革の基本的方向」を科学技術庁長官に提出し、動燃を新法人として解体的に再出発させる旨の改革の基本的方向性を示した。」

 

 

<参考資料>

 

1.原子力白書:昭和40年版、昭和42年版、昭和44年版、

昭和46年版、昭和60年版、平成10年版

  原子力委員会(内閣府に設置されている)の発行

 

2.核燃料サイクル開発機構

  「新型転換炉ふげんの運転終了について」

  平成15年4月1日

 

3.(一般財団法人)高度情報科学技術研究機構のウェブサイト

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=03-02-06-01

 

4.日本原燃(株)のウェブサイト

http://www.jnfl.co.jp/business-cycle/mox/about-mox.html

 

5.原子力委員会のウェブサイト

 「CANDU炉導入問題について」

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/ugoki/geppou/V24/N10/197902V24N10.html

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウムの行く末(7)

2014.7.16

トリウム原発の開発を含めた原発全般の今後を少しでも理解する糸口を得る目的で、プルトニウムの実態を探ります。プルトニウムはウラン原発の未来の形態(高速増殖炉や現行の商用原子炉へのMOX燃料)、核兵器としての利用、余剰のプルトニウム、テロリストによる使用の脅威、環境問題、健康問題など様々な形で原発問題また広くは国際社会に計り知れないほどの影響を及ぼしています。

 

米国エネルギー省が、2014年4月に公表した「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)から、当ブログの目的に沿う情報を抜き出して、連載しています。今回はその最終回です。

 

<米国エネルギー省DOEの報告書から>

報告書名 Report of the Plutonium Disposition Working Group: Analysis of Surplus Weapons-Grade Plutonium Disposition Options

 

 

6.選択肢の比較(Comparison of Options)

 

6.1 国際的な約束を満たせるかどうか

国際的な契約としては、核拡散防止条約(NPT; Nuclear Nonproliferation Treaty)がある。国際原子力機関IAEAとの協議も必要である。また、当然ながら、米国とロシアの間のプルトニウム239の処分に係る契約PMDAがある。PMDAでは次のような約束になっている。

 

・米国とロシアがそれぞれ34トンより多い兵器グレードの

 余剰プルトニウム239を処分する。

・年間でそれぞれ1.3トンを処分する(訳注:単純計算で

 処分の終了に26年を要する)。

・原子炉で使用済みになった燃料(spent fuel)は、プルトニ 

 ウム240の含有量が10%より高くなければならない(

 注:プルトニウム240の含有量を増やして兵器グレードを   

 原子炉グレードに変える。しかしこの原子炉を使う処分法で

 はプルトニウムそのものはほとんど減少しないということに

 なります)。

 

なお、ロシアは高速炉のBN-600とBN-800を使って余剰プルトニウムを処分する。100%のMOX燃料が使われる。BN-800の2機で年間1.3トンを処理できる。

 

プルトニウムが盗まれない防止策としては、物理的、化学的と放射性の3種類がある。

・物理的(physical barrier):地層深くに埋める。

・化学的(chemical barrier):阻止物質でダウンブレンド

               する。

・放射性(radioligical barrier):高レベル廃棄物を混ぜる。

 

6.2 コストの見積もり

 

選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する

 ・250億ドル(為替100円換算で2.5兆円)

選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する

 ・500億ドル(為替100円換算で5兆円)

選択肢3:高レベル廃棄物を混ぜた後、固形化する

     (セラミックかガラス)

 ・280億ドル(為替100円換算で2.8兆円)

選択肢4:阻止混合(downblending)した後、処分する

 ・88億ドル(為替100円換算で0.88兆円)

選択肢5:地層深くボーリング穴(borehole)に埋める

 ・見積もりがされなかった。

 

コストには初期投資、操業費用と関連する費用が含まれる。

 

それにしても米国だけでもこれだけの莫大な費用が兵器グレードの余剰のプルトニウムを処分するだけのために必要とされるということです。これだけの費用を出費しても、兵器グレードのプルトニウムが原子炉グレードに変わるだけであり、プルトニウムそのものはほとんど減少しないという仕組みのようです。

 

6.3 34トンの兵器グレードの余剰プルトニウムの処理

    が始まる時期と完了の時期

 

選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する

 ・2028年に処分開始、2043年に処分完了

選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する

 ・2033年に処分開始、2075年に処分完了

選択肢3:高レベル廃棄物を混ぜた後、固形化する

     (セラミックかガラス)

 ・2039年に処分開始、2060年に処分完了

選択肢4:阻止混合(downblending)した後、処分する

 ・2019年に処分開始、2046年に処分完了

選択肢5:地層深くボーリング穴(borehole)に埋める

 ・2048年に処分開始、2051年に処分完了の可能性

 

それにしても、余剰プルトニウムの処理は準備と実行に非常に長い期間が必要ということです。

 

6.4 技術的な実現性

 

選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する

 ・フランスのMOX技術を米国基準に適合させる。

選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する

 ・技術的なリスクがある。

選択肢3:高レベル廃棄物を混ぜた後、固形化する

     (セラミックかガラス)

 ・技術的に不確実である。

選択肢4:阻止混合(downblending)した後、処分する

 ・技術的に問題は少ない。

選択肢5:地層深くボーリング穴(borehole)に埋める

 ・まだ構想の段階である。

 

選択肢の1と4以外は、技術的に課題があるという評価です。選択肢といいながら、余剰プルトニウムの処分の方法について選択の余地は極めて限られているということになります。

 

6.5 法律、規制ほか

 

選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する

 ・MOX施設とMOX燃料の認定が必要。

選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する

 ・認定に時間がかかる。

選択肢3:高レベル廃棄物を混ぜた後、固形化する

     (セラミックかガラス)

 ・ワシントン州から反対が起こる。

選択肢4:阻止混合(downblending)した後、処分する

 ・連邦、州と地元の十分な取り組みが必要になる。

選択肢5:地層深くボーリング穴(borehole)に埋める

 ・廃棄物の形態の認定が大きな課題になる。

 

どの選択肢も、時間を要する法律と規制への対応に加え関係する地元の説得が必要ということです。

 

以上が、この4月に発表された米国エネルギー省からの、「兵器グレードの余剰プルトニウムの処分に関する再検討の結果」、に関して当ブログによるまとめの最終回です。

 

最後に当ブログからのコメントを羅列します。

・冷戦終結以来、米国の歴代大統領が国家政策として推進し

 てきた余剰プルトニウムの処分という構想が、今なお開始

 には至っておらず、処分に係る費用見積もりの高騰を含め

 た問題に直面しており、最悪のケースでは構想が頓挫する

 ような気配が現れています(国際世論上は許されない事態

 ですが)。

・余剰プルトニウムの処分という計画に関する契約が米国と

 ロシアの間で2011年になってようやく発効したという

 歴史的な経緯ですが、この計画がいかに遠大でまた問題を

 含む「事業」であるかがよく分かりました。

・問題は、費用、処分の準備にかかる期間、処分にかかる期

 間、現実には処分法の選択肢が乏しいこと、です。

・兵器グレードの余剰プルトニウムの処分は、そのグレード

 を原子炉グレードにまで落とすことで了解されており、プ

 ルトニウムの量はあまり減ることにはなりません。原子炉

 グレードに落とすとテロリスト使用の脅威は大きく低下す

 る効果があり、それが目的です。

・米国が国家予算への対応で処分法を見直す作業を進めてい

 ますが、2014年4月に米国エネルギー省から発表され     

 た報告書によると、処分法の選択肢は実際にはほとんど無

 いと言ってよく、費用対応を考えると、処分することを当

 分棚上げして長期保管するような止むに止まれぬ策に頼ら

 ざるを得ないという危惧も生まれて来ます。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

  National Nuclear Safety Administration

  U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

以上

 

 

原発 プルトニウムの行く末(6)

2014.7.15

トリウム原発の開発を含めた原発全般の今後を少しでも理解する糸口を得る目的で、プルトニウムの実態を探ります。プルトニウムはウラン原発の未来の形態(高速増殖炉や現行の商用原子炉へのMOX燃料)、核兵器としての利用、余剰のプルトニウム、テロリストによる使用の脅威、環境問題、健康問題など様々な形で原発問題また広くは国際社会に計り知れないほどの影響を及ぼしています。

 

米国エネルギー省が、2014年4月に公表した「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)から、当ブログの目的に沿う情報を抜き出して、連載中です。

 

<米国エネルギー省DOEの報告書から>

報告書名 Report of the Plutonium Disposition Working Group: Analysis of Surplus Weapons-Grade Plutonium Disposition Options

 

5.プルトニウム処分法の選択肢(Options

 

これまでに数多くの選択肢が検討されてきたが、今回は次の5種類の選択肢が検討対象として選ばれた。

 

選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する

選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する

選択肢3:高レベル廃棄物を混ぜた後、固形化する

     (セラミックかガラス)

選択肢4:防止混合(downblending)した後、処分する

選択肢5:地層深くボーリング穴(borehole)に埋める

 

評価基準として次が設定された:

・国際的な約束を満たせること

・費用

・米国の34トンの余剰プルトニウムの処理の完了に

 要する期間

・技術的な実施可能性

・法律、規制など

 

以下はそれぞれの選択肢の説明である。

 

<選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する>

・これは現行のプルトニウム処分法である。

・プルトニウムを成分として生成されたMOX燃料を国内の

 商用原子炉(加圧炉と沸騰水炉を含めて)で消費する。

・この現行法を実現するために、米国はMOX燃料製造施設

 と廃棄物固化建物(MOX燃料の製造時に生じる廃棄物を

 処理する)を建設中である。

・MOX燃料製造施設はフランスで使用されている技術が適

 用される。

 

<選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する>

・GE日立のPRISM原子炉(当ブログで7月5日に紹介

 した新型の原子炉)に類似の先進処理原子炉(ADR)の

 建設が必要になる。

・PRISMは、①金属燃料を使用する、②不純物への許容

 度が高い、③プルトニウムを大量に処理できる。

・燃料は、プルトニウム、ウランとジルコニウム金属の混合

 物である。

・燃料はKAFFと呼ばれる新施設を建設して製造される。

 

<選択肢3:高レベル廃棄物を混ぜた後、固形化する>

・プルトニウムをセラミックあるいはガラスの形でカンに充

 填後、キャニスタの中で高レベル廃棄物ガラスで取り囲む。

・カンとキャニスタを生産する施設の建設が必要になる。

・ガラスの形で処分する場合には、プルトニウムは粉砕後、

 中性子吸収剤を含むボロシリケートガラスフリットと混合

 される。

・プルトニウムが充填されたカンはマガジンと呼ばれるステ

 ンレス鋼の円筒に入れられた後、キャニスタに収められ高

 レベル廃棄物が充填される。

・ただし、34トンの余剰プルトニウムを処理するに足る高

 レベル廃棄物を米国は保有していない。また、この高レベ

 ル廃棄物を扱う施設は2023年までに操業を終了するた

 め、固形化のための新施設の完成には間に合いそうにない。

この選択肢は現実性がない。

 

<選択肢4:阻止混合した後、処分する>

・プルトニウム酸化物を阻止物質(inhibitor)と混合し、

 容器に収めて永久処分場に出荷する。

・阻止混合でプルトニウムは重量で10%未満に保たれる。

・現在、廃棄物分離パイロット施設(WIPP)がニュー

 メキシコ州で稼動している。1999年に密着操作が可能

 なTRU(超ウラン元素)また2007年に遠隔操作が必

 要なTRUの受け入れを開始した。

・4.8トンのプルトニウムが阻止混合された後、WIPP

 施設に送られた。

・同じような廃棄物分離施設を余剰のプルトニウム処理のた

 めに用意することは、連邦、州と地元からの承諾や法律の

 変更が必要になり、現実的ではない

 

<選択肢5:地層深くボーリング穴に埋める>

・プルトニウム金属もプルトニウム酸化物も扱われる。

・地層5000メートルの深さまでボーリング穴を掘る。

 キャニスタは下層2000メートルまでに埋める。

・34トンの余剰プルトニウムを埋めるためには、この

 ようなボーリング穴が3本必要になる。

この選択肢は不確定性がありさらに検討が必要である。

 

以上の検討から、固形化と阻止混合という処分方法は現実的でないことが分かりました。また、米国の国家予算事情から要請される、余剰プルトニウムの処分法の準備と実行にかかる費用の改善が並大抵なことではないということも分かりました。

 

この時点で選択肢としてして残るのは次の3つです。

選択肢1:MOX燃料化後、軽水炉で消費する

選択肢2:高速炉でプルトニウム燃料を消費する

選択肢5:地層深くボーリング穴(borehole)に埋める

いずれも従来から検討されてきたプルトニウムの処分法であり、処分費用を改善できるような提案はなされていません。

 

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

  National Nuclear Safety Administration

  U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

以上

 

 

原発 プルトニウムの行く末(5)

 2014.7.14

トリウム原発の開発を含めた原発全般の今後を少しでも理解する糸口を得る目的で、プルトニウムの実態を探ります。プルトニウムはウラン原発の未来の形態(高速増殖炉や現行の商用原子炉へのMOX燃料)、核兵器としての利用、余剰のプルトニウム、テロリストによる使用の脅威、環境問題、健康問題など様々な形で原発問題また広くは国際社会に計り知れないほどの影響を及ぼしています。

 

米国エネルギー省が、2014年4月に公表した「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)から、当ブログの目的に沿う情報を抜き出して、連載中です。

 

<米国エネルギー省DOEの報告書から>

報告書名 Report of the Plutonium Disposition Working Group: Analysis of Surplus Weapons-Grade Plutonium Disposition Options

 

4.プルトニウム処分の検討グループ(Plutonium

  Disposition Working Group)

<2013年>

・2014年会計年度の国家予算策定の過程で、プルトニウム

 の処分法の効率を改善する目的で、エネルギー省の中にプル

 トニウム処分検討グループが6月に設立された。そのグルー

 プにはエネルギー省以外の専門家も参加した。

・軽水炉でMOX燃料を消費する現在の方法、高速炉で処分す

 る方法などが分析された。

・テロリスト対策に検討の重心が移された。

 

2013年6月にプルトニウム処分の検討グループが設立され、2014年4月には、この報告書がその検討グループによってまとめらました。

 

要は、プルトニウム削減の政策をクリントン大統領以来すでに20年ほどに渡って推進してきた米国ですが、余剰になっている兵器グレードのプルトニウムの処分にかかると見積もられている費用が高騰し予算化が問題となって来ており、米国の財政赤字野中で、もはや従来の計画を遂行できないような状況に陥っています。プルトニウムの処分方法を見直す指示が、作業部会(working group)に下され、その検討が終了し、今回の報告書がこの4月に発表されたという経緯です。この作業部会の検討は、過去に繰り返し行われたプルトニウム処分法の検討の蒸し返しとなっており、新たな改善策を生み出すことが難しく、残念ながら、現状を解決できるような検討結果には至っていません。

 

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

  National Nuclear Safety Administration

  U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

以上

 

 

 

ひとくちメモ weapons-grade Plutonium と reactor-grade Plutonium

2014.7.13

原子炉から生成されるプルトニウム239は核分裂性物質で、その用途は何と言っても原爆、核弾頭などの核兵器です。生成されるプルトニウムが核兵器の製造に問題がないかどうかは、同時に生成されるプルトニウム240など同位体の含有量で左右されることが知られています。

 

プルトニウム240は自発核分裂という現象を起こして中性子を放出するため、核兵器の制御に問題を生じます。プルトニウム238は崩壊して発熱します。またプルトニウム241はアメリシウム241に崩壊して強力なガンマ線を放出します。

 

そのため、兵器の作製にはプルトニウムの有害な同位体(質量数が238、240と241)の含有量が少なくプルトニウム239の含有量が高いことが必要です。兵器グレードプルトニウム(weapons-grade Plutonium)は、プルトニウム239を約93%含むプルトニウムと決められています。93%よりも含有量が低いと、有害なプルトニウム同位体によって、上記の自発核分裂による中性子の放出、崩壊による発熱とガンマ線の放出が核兵器作製の妨げになる度合いが高まります。

 

商用に発電の目的で使用されている原子炉では兵器グレードプルトニウムは生産できません。プルトニウム240などを多く含む原子炉グレードプルトニウム(reactor-grade Plutonium)というのが生成されます。原子炉グレードプルトニウムはプルトニウム239の含有量が80%より低いプルトニウムです。なお、80%~93%のものは、燃料グレードプルトニウム(fuel-grade Plutonium)と呼ばれています。

 

日本では商用の原発から生成された原子炉グレードプルトニウムが蓄積されています。9.3トンのプルトニウムが国内に保管され、海外(プルトニウム再処理を日本が依頼している英国とフランス)で35トンが処理中のようです。そのため、日本は核兵器製造の準備のためにプルトニウムを蓄積しているのではないかという懸念が出てきます。プルトニウムを使う原子爆弾は8キログラムほどのプルトニウムで作製できるということであり、その気になれば大変な数の原子爆弾を製造できるプルトニウムの量ではあります。

 

一応、核兵器には適さないプルトニウムが日本に蓄積されているわけですが、原子炉グレードプルトニウムから核兵器が作製できないかというとそうではないと言うことです。その気になれば作製が可能です。ただ、作製が面倒になるだけであって、作製技術に長けていないテロリストでも原子炉グレードプルトニウムを盗み出せば、核兵器を作製することが可能になるということです。プルトニウムがふんだんに蓄積されている日本としては、物騒な話です。ただ、テロリストの立場からは、原子炉グレードのプルトニウムを盗み出すよりも高濃縮ウランを盗み出すほうが、核兵器を作りやすいということが言われています。

 

なお、兵器グレードのプルトニウムを製造するためにはその目的で設計された専用の原子炉が必要になります。第2次世界大戦で米国が原爆に使うプルトニウムを製造するために3機の原子炉を設計し稼動させました。そのうちの一号機がB原子炉(B reactor。訳注:熱出力は 250MWt)と呼ばれる原子炉です。これが世界初の大規模な原子炉の誕生でした。この原子炉から取り出された6.2キログラムのプルトニウムが詰め込まれた原爆が長崎に投下されたと言うことです(広島に投下された原爆はウラン全体が64キログラムでそのうち核分裂性物質のウラン235が1キログラム弱と言うことです)。

 

付記:広島に投下されたウラン235を1キログラム弱含んだ

   原爆は10万秒の1秒と言う瞬間に爆発を終え、原子炉

   では1キログラムのウラン235が8時間かけて核分裂

   するように設計されているそうです。

 

付記:現在商用の原子炉に使われているウラン核燃料の放射能

   はその程度が軽微ですが、原子炉グレードのプルトニウ

   ムを含むMOX燃料はプルトニウム同位体が中性子を放

   射したり、崩壊熱を発生したり、挙句は強力なガンマ線

   を放出するということであり、放射線被爆に対する安全

   対策が必要です。日本におけるMOX燃料の発電への商

   用化の計画(プルサーマル計画)は安全対策がとられて

   いるとしても、基本的にはMOX核燃料による放射線被

   爆と言う新たな危険が原子炉を取り巻く従来からの危険

   に重ねられることになります。

 

<参考資料>

1.Canadian Coalition for Nuclear Responsibility の

  ウェブサイト

www.ccnr.org/plute.html

 米国エネルギー省から公表の資料

"Nonproliferation and arms control assessment of weaons-usable fissile material storage and excess Plutonium disposition alternatives"

 

2.B Reactor 博物館(米国ワシントン州)のウェブサイト

http://www.b-reactor.org/

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウムの行く末(4)

2014.7.12

トリウム原発の開発を含めた原発全般の今後を少しでも理解する糸口を得る目的で、プルトニウムの実態を探ります。プルトニウムはウラン原発の未来の形態(高速増殖炉や現行の商用原子炉へのMOX燃料)、核兵器としての利用、余剰のプルトニウム、テロリストによる使用の脅威、環境問題、健康問題など様々な形で原発問題また広くは国際社会に計り知れないほどの影響を及ぼしています。

 

米国エネルギー省が、2014年4月に公表した「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)から、当ブログの目的に沿う情報を抜き出して、連載中です。

 

今回はプルトニウムをウラン238と混合して核燃料として使うMOX燃料による兵器グレードの余剰プルトニウムの処分を扱います。

 

<米国エネルギー省DOEの報告書から>

報告書名 Report of the Plutonium Disposition Working Group: Analysis of Surplus Weapons-Grade Plutonium Disposition Options

 

3.MOX燃料法の状況(Status of the MOX fuel

  approach)

<2012年>

・米国でのMOX燃料製造施設のコストが、設計、建設、冷

 運転(cold start-up)に対して48億ドルと見積もられた。

 実運転の開始は2016年11月予定とされた。なお、

 MOX燃料の計画には、MOX燃料製造施設の他に、MOX

 施設から排出される廃棄物を処理する廃棄物固形化の施設、

 核兵器のピットを解体し取り出されたプルトニウム金属を

 プルトニウム酸化物に変換する能力、MOX燃料の認定作

   業、MOX燃料を使ってくれる原子炉の改良、などが含ま

   れる。

<2012年>

・MOX燃料施設の請負業者(MOX facility contractor)は、

 48億ドルの費用を77億ドル(為替100円換算で

 7700億円)と見積もりを変更した。また実運転の開始は

 2019年11月に延期された。米国エネルギー省の新たな

 試算ではこの変更見積もりでもコストの見積もりが低く過ぎ

 るということとなった。

<2013年>

・米国エネルギー省は、コストの増加と予算獲得のことを鑑み

 て、別のプルトニウムの処分法を検討することを発表した。

・別の処分法を検討する間、米国でのプルトニウム処分に係る

 活動をスローダウンすることとなった。

 

米国において、プルトニウムをMOX燃料にして処分する方法は予想外にコストが嵩みまた開始するまでに時間がかかるという評価となり、別の処分法が検討されるまではプルトニウムの処分がしばらく進まないことが分かりました。ただ、別の処分法と言っても、これまでに繰り返し検討されており(1997年には37種類の処分法が米国で検討されている)、より良い方法が編み出されるとは言えない現実です。日本では、プルトニウムを含んだMOX燃料を商用の原子炉で消費する計画が進められてきましたが、東日本大地震による福島原発の破壊の影響で進行が停止しています。

 

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

National Nuclear Safety Administration

U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

2.ResearchGate のウェブサイト

http://www.researchgate.net/publication/245135370_Analytic_method_study_of_point-reactor_kinetic_equation_when_cold_start-up

「cold start-up の定義」

"The reactor cold start-up is a process of inserting reactivity by lifting control rod discontinuously"

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウムの行く末(3)

2014.7.11

トリウム原発の開発を含めた原発全般の今後を少しでも理解する糸口を得る目的で、プルトニウムの実態を探ります。プルトニウムはウラン原発の未来の形態(高速増殖炉や現行の商用原子炉へのMOX燃料)、核兵器としての利用、余剰のプルトニウム、テロリストによる使用の脅威、環境問題、健康問題など様々な形で原発問題また広くは国際社会に計り知れないほどの影響を及ぼしています。

 

米国エネルギー省(DOE)が、2014年4月に公表した「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)から、当ブログの目的に沿う情報を抜き出して連載中です。

 

 

<米国エネルギー省DOEの報告書から>

報告書名 Report of the Plutonium Disposition Working Group: Analysis of Surplus Weapons-Grade Plutonium Disposition Options

 

2.背景とこれまでの検討結果(Background and previous

  considerations)

<冷戦の時代(1945-1989年)>

・44年間続いた冷戦が終結すると、米国とソ連で大量のプル    

 トニウムが軍事目的から余剰となった。

・余剰プルトニウムに関わる核拡散、テロリスト、環境、安全

 と健康の問題が国際的に問題となった。

 

付記:冷戦終結の後、ソ連は1991年12月25日に崩壊

    した。

 

<クリントン大統領の時代(1993-2001年)>

・1993年に、大統領就任間もなくクリントン大統領は核不

 拡散と輸出規制政策(Nonproliferation and Export Control

 Policy)を打ち出した。これは、米国で高濃縮ウランとプル

 トニウムの蓄積を削減することなどを方針とした。

・1994年に、米国科学アカデミー(訳注:学術機関)がレ

 ビューを実施し、兵器グレードのプルトニウムの処分法とし

 ては、 ①高レベル放射性廃棄物(HLW)と混合した上で

 固定化(immobilization)する、②MOX燃料にして商用の

 原子炉で消費する、を挙げた。

・1995年に、米国は兵器グレードのプルトニウムが

 38.2トン余剰であることを宣言し、また兵器グレードで

 はないプルトニウムが14.3トン不要となっていることを

 公表した。

・1996年には、 モスクワでの核安全セキューリティサミッ

 トで米国とロシアでの余剰の核分裂性物質を核兵器に使用で

 きないようにする共同宣言をロシアを含めて発表した。

・1997年に、米国エネルギー省はプルトニウムの処分法と

 してプルトニウム固定法ならびにMOX燃料化して現存の軽

 水炉で消費する方法を採ることを決定した。その後、エリツ

 ィン・ロシア大統領は、ロシアは50トンの国防上余剰のプ 

 ルトニウムを保有していることを宣言した。

・2000年に、米国とロシア連邦はPMDA契約に署名し、

 両国それぞれが34トンの兵器グレードのプルトニウムを処

 分することになった。ロシアと米国はプルトニウムをMOX

 燃料化し軽水炉で消費する方法を採ることになった。加えて

 米国はプルトニウムの固定化による処分を多少併用すること

 になった。

 

付記:PMDAとはプルトニウム管理と処分に関する米国と

   ロシアの間の次の契約です。

The Plutonium Management and Disposition Agreement (PMDA), [long title: Agreement Between the Government of The United States Of America and the Government of The Russian Federation Concerning the Management and Disposition of Plutonium Designated as no Longer Required for Defense Purposes and Related Cooperation]

 

<ブッシュ大統領の時代(2001-2009年)>

・2002年に、ブッシュ政権はプルトニウムの処分を含む

 核不拡散プログラムの見直しを指示した(訳注:ブッシュ

 大統領は共和党、クリントン大統領は民主党)。米国エネ

 ルギー省は40種類以上のプルトニウム処分法を検討した。

 エネルギー省は、予算の制約を考慮してプルトニウムの固

 定法を止めることを決めた。プルトニウム処分の費用と期

 間が改善されることとなった。MOX燃料法だけでの総費

 用は20年間で38億ドル(為替100円換算で3800

 億円)と見積もられた。この費用には、MOX燃料製造施

 設、核兵器のピット分解、換施設(訳注:金属プルトニ

 ウムをプルトニウム酸化物に変換する)などを含めたもの

 である。

・2006年に、米国議会の依頼に基づいて、エネルギー省

 は余剰プルトニウムの処分法の戦略を再度分析した。

・2007年に、エネルギー省は米国議会に報告書を提出し

 MOX燃料だけによる処分案を再確認した。同年にエネル

 ギー省長官は、核兵器の経年による回収のため数十年に渡

 って兵器グレードのプルトニウムが9トン余剰になり、商

 用原子炉でMOX燃料として発電に供されると宣言した。

 

<オバマ大統領の時代(2009年から現在)>

・2010年に、核セキューリティサミットでヒラリー・ク

 リントン国務長官とロシアのラブロフ外務大臣が、ロシア

 の要請に沿って、PMDA契約を変更して、ロシアはプル

 トニウムの処分を高速炉行うという議定書に合意した。

・2011年に、両国での正式の承認を経て、議定書が付の

 PMDA契約(訳注:兵器グレードのプルトニウムの処分

 に関する米国とロシア間の合意)が発効した。

 

1996年に米国とロシアの両国間で合意された兵器グレードのプルトニウム処分の契約が、ようやく2011年に発効したという歴史です。大きな一歩ではありますが、プルトニウム処分の前途は予断を許さないようです。大きな問題の一つは、後ほど出てくる鰻のぼりの費用の見積もりです。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

National Nuclear Safety Administration

U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウムの行く末(2)

 2014.7.10

トリウム原発の開発を含めた原発全般の今後を少しでも理解する糸口を得る目的で、プルトニウムの実態を探ります。プルトニウムはウラン原発の未来の形態(高速増殖炉や現行の原子炉へのMOX燃料)、核兵器としての利用、余剰のプルトニウム、テロリストによる使用の脅威、環境問題、健康問題など様々な形で原発問題また広くは国際社会に計り知れないほどの影響を及ぼしています。

 

米国エネルギー省が、2014年4月に公表した「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)から、当ブログの目的に沿う情報を抜き出して、今回から連載します。

 

 

<米国エネルギー省DOEの報告書から>

報告書名 Report of the Plutonium Disposition Working Group: Analysis of Surplus Weapons-Grade Plutonium Disposition Options

 

1.序(Introduction)

 ・核軍縮はオバマ大統領の命題である。

 ・国際社会に脅威と危険をもたらす余剰の高濃度ウラン

  (HEU。訳注:ウラン235の含量が20%を超え

  る)と余剰のプルトニウムを処分する。

 ・高濃度ウランは低濃縮ウラン(LEU。ウラン235の

  含有量が天然ウランの0.7%を超え20%以下)に薄め

  ることで処分する。

 ・プルトニウムは、米国とロシア連邦が締結したPMDA

  契約(訳注:プルトニウム処分に関する契約で2000年

  に発表され2011年にようやく発効した画期的な契約

  に基づいて、米国はMOX燃料にして現在使用されている

  商用の原子炉で核燃料として利用し消費する。

 ・米国、ロシアそれぞれ、PMDA契約に基づいて34トン

  を越える余剰の兵器グレードのプルトニウムをMOX燃料

  にして処理する。

 ・現在米国で認識されている問題は、MOX燃料にしてプル

  トニウムを消費する方法が当初の予測よりもコストが嵩み

  また長い期間がかかることである。そのため、2014会

  計年度での米国国家予算に関するオバマ大統領からの指示

  で、米国エネルギー省はプルトニウムの処分方法を見直す。

 

折角、米国とロシアの間での契約が発効したプルトニウムの削減ですが、米国では国家予算との関係でプルトニウムの削減の推進に支障が出てきているという現実です。

 

米国が仮にトリウム原発の必要性に迫られ開発を進めることを検討したとしても(エネルギーの海外依存性が改善される見通しのある米国ではこのような必要性は出てこないと思われますが)、米国の財政赤字の現状からは予算化を達成することは容易でないことと想像できます。米国政府の命題となっているプルトニウムの削減すら危うくなっている状況です。

 

MOX原料は日本でもプルトニウムの便利な消費法として薦められておりますが、米国からプルトニウムのMOX燃料化の費用が従来の予測より嵩むという見積もりが出てくると、日本でのコストに係る再度の分析が求められます。米国エネルギー省のこの報告書の中で後ほど詳しく触れられますが、MOX燃料に係る一連のコスト見積もりの上昇は相当な額です。MOX燃料に経済性でこのように問題があるとすると、MOX燃料を利用しようとする現在のウラン系統の原発の将来に暗雲が立ち込めることになりかねません。

 

<付記>

以下はMOX燃料の初歩的な説明です。原子炉から取り出される使用済み核燃料には、核分裂を起こさず残ったウラン238が約95%、プルトニウムが約1%、核分裂生成物が約3%とウラン235が約1%含まれていると言われます(出所:日本原燃のホームページ)。この使用済み燃料を化学的に「再処理」してウラン238とプルトニウムを別々に取り出します。そしてこの取り出したウラン238とプルトニウムを混ぜ合わせます。これがMOX燃料です。このMOX燃料を軽水炉で使われる核燃料ペレットと同じ形状にしたものを一部だけウラン核燃料の代わりに使う方式が「プルサーマル」方式と呼ばれています。なお、MOXは、mixed oxide(混合酸化物)の略語です。プルサーマルは和製英語 plutonium thermal reactor に由来しているということです。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省、国家核安全局のウェブサイトから

  National Nuclear Safety Administration

  U.S. Department of Energy

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/04-14-inlinefiles/SurplusPuDispositionOptions.pdf

 

以上

 

 

 

原発 プルトニウムの行く末(1)

2014.7.9

ウランが過去60年ほどに渡って原子力の世界を支配してきた中で、新しい核燃料物質であるトリウムの出番はどうなのか、トリウムは必要なのか、あるいはトリウム熔融塩原発は理論的にメルトダウンがなく安全性が格段に高いといわれているが原発の世界を変える余地があるのか、という基本的な問いかけに対して即座に明確な回答を引き出せない状況が現状です。

 

そのような回答を引き出す上で、理解しておきたいのがウラン原発の世界を揺るがすプルトニウムの行く末です。現在の原発は天然ウランに僅か0.7%含まれているウラン235の核分裂で発生する熱エネルギーを電力に転換しています。本来ならば、残りの99.3%に当たるウラン238は使用できず捨てなければならない訳ですが、ウラン238は中性子を照射することによってプルトニウムという原子に変換でき、このプルトニウムはウラン235と同じように核分裂を起こす能力をもっているため、原発での使用が可能になるのです。そうすると全くの単純計算ですが、ウラン235の埋蔵量の100倍ほどの核燃料物質を人類は確保できるというストーリーが生まれます。ウラン235による原発をこれから例えば埋蔵量から85年使えるとすると、プルトニウムが使えればその100倍の8500年?という途方も無い長い間エネルギー源の心配をする必要がなくなるということになります(世界のエネルギー需要を一定として)。夢のような話です。このような薔薇色の台本に沿って開発が進められてきたのが「もんじゅ」などの高速増殖炉です。高速増殖炉はウラン238をプルトニウムに変えるための新型の原子炉です。ところが、世の中にはそう虫の良い話は中々無いようで、巨額の国家資金を使いながら開発が進められてきた高速増殖炉は、世界の中で見通しが立っているという話を聞かないのが現状です。日本では、国家規模のプロジェクトとして継続されてきた高速増殖炉「もんじゅ」の開発が問題を起こし現在中断しています。

 

プルトニウムの原点は原爆の開発でした。原爆を頂点とした核兵器を増産するために、米国とソ連がプルトニウムの増産に増産を重ねてきました。

 

プルトニウムは冷戦時代に米国とソ連で蓄積され、冷戦終了後は余剰のプルトニウムが莫大な量(兵器グレードのプルトニウム:米国が47トン、ソ連が50トン)保管されたままです。また、これから古くなって廃棄される核兵器からはプルトニウムが出て来ます。このようなプルトニウムは核を持たない国への拡散やテロリストによる盗難の可能性として世界の安全に甚大な脅威となっています。

 

プルトニウムを取り巻く実態を知ることは、原発の将来(トリウムを含めて)を見通す上で役に立つ情報と洞察をもたらしてくれるのではないかと期待します。

 

2014年4月に、米国エネルギー省の国家核安全局が「兵器グレードの余剰プルトニウムの処理に関するレポート」という報告書(本文が全37ページ、全体で201ページ)を公開しています。当ブログでは、この報告書の内容を連載で取り上げていきます。

 

付記:「兵器グレードのプルトニウム」は weapons-grade

          Plutoniumの当ブログでの和訳です。「兵器用プルト

    ニウム」、「兵器級プルトニウム」などと訳されてい

    るようです。「兵器品位のプルトニウム」が訳として

    は近そうですが。

 

以上