トリウム原発 ウラン233 (27)

2014.7.8

核分裂をしないトリウムに中性子を当てると、核分裂性物質であるウラン233が生成されます。そのウラン233の特徴をまとめた米国オークリッジ国立研究所の資料がありましたので、以下に紹介します。

 

<和訳>

ウラン233の特性(U-233 Properties)

 

・原子炉の中で天然トリウム(Th 232)を照射することによって

 ウラン233が人造される。

・ウラン233は程度は違うが常にウラン232によって汚染さ

 れている。ウラン232はその崩壊系列に”悪役”であるタリウ

 ム208(Tl208)とラドン220(Rn220)を含む。

 -タリウム208の崩壊は高エネルギーのガンマ線

 (2.6MeV)を含む。そのため保管されているウラン

  233の大半は遠隔操作で扱わなければならない。

 -ラドン220(トロン)は短い半減期のアルファー

  線を放出する。

 

・ウラン233は兵器グレードのプルトニウムに似た核物質の

 性質を持ち、ウランと同じ化学的特性を有する。

 -強いアルファ線が放出される(吸入すると害)。

 -核兵器に利用できるため厳重な管理、厳しい保全

  と臨界の防止が要求される。

 

日本での原子力法体系の中で、政令第325号において、トリウムもウラン233も、天然ウラン、劣化ウラン(別名、減損ウラン)、濃縮ウランとプルトニウムとともに、「核燃料物質」として定義され規制されています。

 

<原文>

U-233 Properties

 

U-233 is man-made in nuclear reactors by irradiating natural thorium (Th-232)

U-233 is always contaminated to varying degrees with U-232, which includes two "bad actors" in its decay chain: Tl-208 and Rn-220

 

•Tl-208 decay includes a high-energy gamma (2.6 MeV) which causes most of the U-233 inventory to require remote handling

 

•Rn-220 (thoron) is an alpha-emitting gas with a short half-life

U-233 has nuclear properties similar to weapons-grade plutonium, but the chemistry of uranium

 

•High specific alpha activity (inhalation hazard)

 

•Weapons-usable fissile nuclear material requiring strict safeguards, tight security, and criticality control

 

<参考資料>

1.米国オークリッジ研究所のウェブサイト

 U-233 Disposition Project Update

 Presented to Oak Ridge Site-Specific Advisory Board

 March 9, 2011

http://www.oakridge.doe.gov/em/ssab/Minutes/FY2011/Presentations/U-233ProjectUpdate.pdf#search='u233+disposal+project+update'

 

以上

 

 

 

トリウム原発 米国オークリッジ国立研究所に残るウラン233 (26)

2014.7.7

米国オークリッジ国立研究所では、1950年代から1960年代にかけてトリウム熔融塩原子炉が開発され、その後開発が中止されたことは原子力関係者にはよく知られています。

 

トリウム熔融塩実験原子炉の中ではトリウムが核分裂物質のウラン233に転換されそのウラン233に核分裂を起こさせて発電のエネルギー源として利用します。

 

そのようなウラン233が今なおオークリッジ国立研究所に残っていると言うことです。ウラン233は核兵器に利用できるため厳重な管理が必要な物質です。

 

米国政府は、核兵器の開発と政府がスポンサーとなった核エネルギーの研究によって過去60年間ほどにもたらされたプルトニウムやウラン233などの環境への負の遺産を安全にクリーンアップする任務をエネルギー省のEM部(the Office of Environmental Managament)に託しています。

 

米国ではウラン233が複数個所に保管されており、その中で最大量がオークリッジ国立研究所に保管されているということです。450kgのウラン233が今もオークリッジ研究所に眠っています。この全量が2017年までには処分されるようです。

 

米国は核兵器に転用可能な核燃料物質に厳重な管理を敷いております。参考資料から分かるように、その管理状態ができる限り国民に見える体制をとっていることが分かります。

 

 

<参考資料>

1.米国エネルギー省のEM部のウェブサイト

http://energy.gov/em/office-environmental-management

 

2.米国オークリッジ研究所のウェブサイト

 U-233 Disposition Project Update

Presented to Oak Ridge Site-Specific Advisory Board

March 9, 2011

http://www.oakridge.doe.gov/em/ssab/Minutes/FY2011/Presentations/U-233ProjectUpdate.pdf#search='u233+disposal+project+update'

 

3.米国エネルギー省EM部のウェブサイト

Office of Environmental Management, DOE

"Special Nuclear Materials: EM manages Plutonium, Highly Enriched Uranium and Uranium-233"

http://energy.gov/em/special-nuclear-materials-em-manages-plutonium-highly-enriched-uranium-and

 

以上

 

 

 

 

トリウム原発 競合するナトリウム冷却の超小型高速炉 (25)

2014.7.6

6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。その3件については、当ブログで紹介しました。

 

ここでは、従来のウラン燃料を使う未来型の原発のコンセプト5件の内、東芝からの小型原子炉4Sのコンセプトの提案について、米国エネルギー省の技術評価パネル(TRP)による報告書と提案企業のウェブサイトから見ていきます。

 

<未来型発電の方式>

4S(Super-Safe, Small and Simple)原子炉。

ナトリウム冷却の高速炉。

 

<出力>

50MWと大変に小型(訳注:通常の原発の数十分の1の

大きさ)。

 

<用途>

遠隔地に設置(核燃料の取替えは不要)。地下に設置する。

 

<核燃料>

ウランと10%ジルコニウムの合金。

 

<効率>

37%。出口温度は510度C。

 

<寿命>

60年。

 

<燃料取替え>

10年周期(取替え無しの設計がコンセプト)。

 

<事故への安全対応>

炉心をリング状に囲む中性子反射板をスライドさせて中性子の量を制御する方式を採っている。事故の際にはこの反射板を重力で落下させて中性子が反射して戻ってこないようにして、連鎖反応を止める。

 

まだ原子炉として実証はされていないということです。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

2.東芝のウェブサイト

http://www.toshiba.co.jp/nuclearenergy/jigyounaiyou/4s.htm

 

以上

 

 

 

 

トリウム原発 競合するナトリウム冷却高速炉 (24)

 2014.7.5

6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。その3件については、当ブログで紹介しました。

 

ここでは、従来のウラン燃料を使う未来型の原発のコンセプト5件の内、使用済み燃料を積極的にリサイクルするGE・日立からの原子炉の提案について、米国エネルギー省の技術評価パネル(TRP)による報告書と提案企業のウェブサイトから見ていきます。

 

<提案企業>

GE日立ニュークリア・エナジー社(訳注:米国企業。2007年設立。GE6:日立4の株所有)。

 

<未来型発電の発想>

高速原子炉PRISM(Power Reactor Innovation Small

Module)と燃料リサイクルセンターを同じ敷地に併設する。

 

<用途>

・現在主流の軽水炉から発生する使用済み燃料(95%のウラ

 ン、1%の超ウラン元素TRUと4%の分裂生成物からなる)

 を核燃料として消費する。

・プルトニウムを核燃料として消費する。

・全ての超ウラン元素を核燃料として消費する。

 

<核燃料の利用効率>

核燃料として利用できないウラン238を核燃料に転換できるので、ウラン核燃料の利用効率が100倍ほどに向上する。

 

<原子炉>

ナトリウム冷却高速炉。

 

<出力>

300MWと中型。

 

<効率>

39%。出口温度は500度C。

 

この原子炉は、高速中性子を用いる高速炉の利点を最大限に活用して、ウラン燃料サイクルで発生する核分裂性物質を何でも核燃料として消費することのようです。このような原子炉が主流になると、ウラン系統の燃料で現在想定の100倍ほどの長期の間、原子エネルギーを得ることができるという売り込みです。ただし、安全な高速炉の実現が必須要素です。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

2.GE日立ニュークリア・エナジー社のウェブサイト

http://gehitachiprism.com/what-is-prism/how-prism-works/

 

以上

 

 

 

 

トリウム原発 競合するハイブリッド発電 (23)

2014.7.4

6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。その3件については、当ブログで紹介しました。

 

ここでは、従来のウラン燃料を使う未来型の原発のコンセプト5件の内、原子力発電と火力発電の混成発電コンセプトの提案について、米国エネルギー省の技術評価パネル(TRP)による報告書と提案企業のウェブサイトから見ていきます。

 

<未来型発電の方式>

Nuclear Advanced Reactor Concept という名称で、低コストの火力発電と原子力発電を結合した方式です。具体的には、ヘリウム冷却原子炉(出力:600MWt)でヘリウムタービンを駆動しそのタービンは空気を圧縮するのに使われます。その圧縮空気を天然ガス燃焼タービンに送り込み燃焼させて天然ガス燃焼タービンを駆動します。また別にその高温排ガスで水蒸気を発生させ蒸気タービンを駆動します。この2種類の天然ガスタービンと蒸気タービンから同時に電力を出力して効率を上げます(combined cycle)。

 

<企業名>

Hybrid Power Technologies, LLC (訳注:2005年に設立

 

<出力>

850MWe。

 

<効率>

52%。原子炉の出口温度は838度C。

 

<核燃料>

ウラン。19%の濃縮。

 

<原子炉>

熱中性子炉。

 

<寿命>

40年。

 

<燃料の取替え>

2年の周期。

 

このコンセプトは火力発電に必要な圧縮空気を原子力発電の電力で作り出す点が創造的です。ガスタービンとは一般にその出力の半分ほどを自ら空気の圧縮に消費する仕組みになっている装置と言うことです。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

2.Hybrid Power Technologies, LLC のウェブサイト

http://www.hybridpowertechnologies.com/index.html

 

以上

 

 

 

 

トリウム原発 競合するカートリッジ型原発(22)

 2014.7.3

6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。その3件については、当ブログで紹介しました。

 

ここでは、従来のウラン燃料を使う未来型の原発のコンセプト5件の内、超小型のカートリッジ型のユニークな提案について、米国エネルギー省の技術評価パネル(TRP)による報告書と提案企業のウェブサイトから見ていきます。これは、研究開発上トリウム原発に競合する原発となります。

 

<未来型原子炉名>

Gen4 エネルギー原子炉(Gen4 Energy Reactor)

 

<企業名>

Gen4 エネルギー社(訳注:2007年設立。米国のロスアラモス国立研究所が開発したIPを企業化しようとしている。)

 

<原子炉>

高速炉。

 

<出力>

25MW(訳注:通常の原子炉の数十分の1のミニサイズである。70MWの熱源としても使える。)

 

<効率>

30~35%。

出口温度は500度C。

 

<核燃料>

窒化ウラン。19.8%に濃縮。

 

<中性子>

高速中性子。

 

<冷却剤>

鉛・ビスマス共晶合金(LBE)。

 

<寿命>

30年。カートリッジを外して工場に送り返して廃棄物処理する。

 

<核燃料の補給>

10年の周期(訳注:長いことが利点。)。カートリッジを外して工場に送り返して補給する。

 

外形が1.5メートル、総重量が20トンと超小型の原子炉コンセプトです。原子炉がカートリッジになっており、取り外して取替えする方式であることが画期的です。高速炉であること、鉛・ビスマスという新しい冷却剤を使うことなど技術的には開発要素が高いといえそうです。

 

なお、鉛・ビスマス冷却材は、中性子を吸収しない(中性子経済性が優れている)ことが大きな特徴で、水、酸素と反応しないという利点もあります。欠点は、重たいこと、放射化することなどです。ソ連の原子力潜水艦に使われたそうです。

 

付記:鉛・ビスマス共晶合金はその融点は125度C(ナトリウム金属は98度C)で、沸点は1670度Cとナトリウムの883度Cに比べて高く沸騰が起こるまでの余裕度が高いことが長所と言われています。放射化についてはナトリウムはガンマ線を出しますが、鉛・ビスマスはアルファー線(生成するポロニウム元素から)を出すので対応がしやすいということです。腐食の問題もあるといわれています。水との反応性は低いということですが、二次冷却に使う水蒸気が洩れると反応する危険性を秘めているようです。なお、鉛・ビスマスが冷却剤として使われたソ連の原子力潜水艦は高速炉ではなく従来からの熱中性子炉です。

 

<参考資料>

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

2.Gen4 エネルギー社のウェブサイト

http://www.gen4energy.com/

 

以上

 

 

トリウム原発 競合するウランの未来型原発 (21)

2014.7.2

6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。その3件については、当ブログで紹介しました。

 

ここでは、提案8件の内、従来のウラン燃料を使う未来型の原発のコンセプト5件について、米国エネルギー省の技術評価パネル(TRP)による報告書から中身を見ていきます。これらは、研究開発上トリウム原発に競合する原発となります。

 

<未来型原子炉名>

エネルギー多重型モジール(Energy Multiplier Module, EM2

 

<企業名>

ジェネラル・アトミックス社(General Atomics)

訳注:核燃料サイクル技術などを提供する民間軍事会社。1955年設立。米国サンディエゴ。三菱重工と連携。)

 

<出力>

245MW(訳注:小型であるモジュール単位で増設することができる。)

 

<原子炉>

高速炉。

 

<熱変換>

ブライトン変換(Brayton conversion)サイクルにランキン変換(Rankine conversion)サイクルを併用する(訳注:ブライトン変換はヘリウムガスを直接タービン羽根に当てる。ランキン変換は水蒸気を用いる)。

 

<変換効率>

49%(訳注:通常の原子炉の28~34%に比べて相当に高い)。原子炉出口温度は850度C(訳注:出口温度が極めて高いので効率が改善される)。

 

<中性子>

高速中性子。

 

<冷却剤>

ヘリウムガス。

 

<核燃料>

多孔性のウランカーバイド(訳注:ヘリウムガスがこの隙間を通って、放射性生成ガスを常時運び出す)。シリコンカーバイドで被覆する。

 

<寿命>

60年。

 

<燃料の入れ替え>

30年の周期(訳注:燃料を30年間取り替えなくてよい)。

 

以上は、米国エネルギー省の技術評価パネル(Technical Review Panel)の報告書(文献1)からの情報です。

 

このエネルギー多重型モジュールの具体的な目的や詳細は文献2と3を参考にすると、極めて意欲的なウラン燃料による原子炉コンセプトであることが分かります。様々な特徴とともに、福島原発の悲劇の防止策を折込み、また、トリウム熔融塩原発の長所を取り入れています。その内容を以下に羅列します。

<特徴>

・劣化ウランと使用済み燃料を出発燃料として、その中に含ま

 れるウラン238を核物質に変換してそのまま燃料として用

 いる(convert-and-burn)。

・電力と熱源として設計されている。

・小型で運搬可能である。

・遠隔地や軍の基地に設置できる。

・アクチニド元素はすべて原子炉内で消費される(高速中性子

 で)。

<福島原発の悲劇対応>

・燃料とその被覆はセラミックであるため、2000度Cを超

 えてもメルトしない。

・冷却に水を使わないので水素が発生しないため、水素爆発が

 起こらない。

<トリウム熔融塩原発と類似した長所>

・小型である。

・生成した放射性ガスを運転しながらヘリウムガスで取り除け

 る。

・アクチ二ド元素が原子炉内で消費され廃棄物として残らない。

・核燃料を運転しながら生成できる。

 

<参考文献>

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

2.Hindawi Publishing

Hindawi Corporation

Science and Technology of Nuclear Installations

"A Compact Gas-Cooled Fast Reactor with an Ultra-Long Fuel Cycle"

Hangbok Choi et al (General Atomics)

2013

http://www.hindawi.com/journals/stni/2013/618707/

 

3.Smartplanet

"A small nuclear reactor wiht a difference"

Mark Halper

April 8, 2014

http://www.smartplanet.com/blog/bulletin/a-nuclear-reactor-with-a-difference/

 

以上

 

 

 

トリウム原発 未来型原子炉に対する米国エネルギー省の評価基準(20)

 2014.7.1

6月27日のブログで紹介したように、米国エネルギー省(US Department of Energy; DOE)の原子力エネルギー部(Office of Nuclear Energy)が2012年2月に未来型の原子炉(advanced reactor)のコンセプトの提案を8件原子炉業界から集めて、同年12月にその評価結果を報告書として公表しています。その中にはトリウムを使う原子炉のコンセプト提案が3件含まれていました。

 

米国のエネルギー省が未来型の原子炉のコンセプトに対してどのような評価基準を用いたのかは、大変に興味をそそります。上記の報告書は、エネルギー省が特別に設立した技術評価パネル(Technical Review Panel)が作成しています。その報告書の中で未来型原子炉のコンセプトの評価基準が説明されておりますので、その内容を和訳しながら以下に要点を示します。

 

評価基準は11項目からなります。それぞれの要点は次のようです。

 

(1)安全(Safety)

  原子炉システムの安全、多重の安全防御(縦深防御;

  defense-in-depth。訳注:防御を一重でなく多重にする

  意味の軍事用語)と原子炉の材料や構造の安全余裕度。

  ・原子炉システムの設計と敷地のレイアウトの安全面。

  ・放射性物質の放出へのバリア。

  ・異常負荷時の材料や構造の安全余裕度。

(2)核安全保障(Security)

  原子炉設計の核安全保障能力と利用技術の核安全保障特性。

  ・テロ攻撃への防御。

  ・核物質の窃盗の抑止。

(3)ウラン資源の有効利用と廃棄物生成の最少化

  長期的な核エネルギー供給を確保するためのウラン資源の

  一層の有効活用と地層廃棄を必要とする廃棄物の削減。

(4)操業性(operational capabilities)

  制御法、操業モード(ベースロードなど)、保守、検査と

  燃料追加の周期(refueling interval)。

(5)コンセプトの成熟度、操業の経験、未知の事項と前提

  原子炉デザインの成熟度、必要技術の完成レベル、操業の

  経験など。

  ・開発中の新材料、核燃料、技術の完成程度。

(6)核燃料とインフラ

  現存の国内、国外の核インフラとの整合性。

  ・既存インフラとの整合性が高いと、インフラの変更を必

   要とする新原子炉より短期間でまた低コストで実現でき

   る。

(7)市場性(Assessment of market attractiveness)

  市場において魅力的でまた競争性があるかどうか。 

  ・効率、初期投資コスト、発電以外の利用法など。

  ・建設費用、操業費用、投資費用、資金調達。

  ・核の安全性、商売上の保証、環境関連。

  ・一般からの支持、政治からの支持と好条件の資金調達。

(8)経済性(Economics)

  未来型原子炉の経済性。

  ・建設、製造、操業のコストと不確定な要素。

  ・発生電力の単価。

  ・電力以外の生成物(たとえば水素)の価値。

(9)原子力の認可関連(Potential reguratory licensing

   environment)

  原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission)の  

  認可を得る上での課題。

  ・現在主流である軽水炉(LWR)にみられない独特のデザ

   イン。

(10) 核不拡散(Nonproliferation)

  核拡散のリスクを最小化する可能性について理解する。

  ・技術的な要素。

  ・国際的安全措置、協定、機関、ビジネス習慣など。

   -米国の核不拡散政策。

   -国家核安全保障局(National Nuclear Security

Administration)、国務省と原子力規制委員会で推進

    されているイニシャティブ。

(11)研究開発ニーズ(Research and Development

    Needs)

  未来型原子炉の商品化を支援することを目標とする。

  ・提案者からの研究開発ニーズを理解する。

  ・研究開発の期間と費用を理解する。

 

以上が、米国エネルギー省が設定した未来型原子炉のコンセプトに対する評価基準です。米国が国際的な核政策としている核不拡散やテロリストの攻撃の阻止がそれぞれ評価項目となっていることが分かります。

 

この評価基準が含む問題は、評価基準の(6)です。この基準では現在のウラン原発に設定されたインフラをどれだけ利用できるかという点で判断を行いますが、ウラン原発とは異質で革新的なコンセプトには不利な評価基準となります。トリウム熔融塩原子炉では、固体ではなく融けた核燃料を使うため、ウラン原子炉とは異質の技術となり、評価基準(6)の上では不利な評価が下されます。この基準は、現在の延長線上にあるコンセプトを求め、現在の技術からはみ出た画期的な技術は締め出す効果をもたらすことになります。過去60年間ほどに渡って培われ世界を支配してきたウラン固体燃料のインフラを継続したという意図は揺るがしがたいものです。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

以上

2014年6月30日

トリウム原発 フリ-ベエネルギー社 (19)

 

6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。

 

ここではそのうちの3件目について参考資料1に基づいて和訳して手短に紹介します。

 

この提案は、原子炉設計の定量的な部分がまだ決められていないということです。

 

<未来型原子炉名>

トリウム原子炉(Thorium Reactor)

 

<企業名>

フリ-ベエネルギー社(Flibe Energy)

 

<出力>

40MW(訳注:通常の 1/10 ほどと小型である)。

 

<効率>

40%。出口温度は450度Cよりも高い。

 

<寿命>

5年から10年。

 

<核分裂を引き起こす中性子>

熱中性子。

 

<冷却剤>

フッ化リチウムとフッ化ベリリウムの熔融塩。

 

<核燃料>

UF4を使う。トリウムを継続的に加える(訳注:この説明では熔融塩なのか判然としないが、総説に「トリウム熔融塩炉」と説明がある)。

 

当ブログの補足ですが、この技術については1960年代に米国のオークリッジ国立研究所が開発し、小規模な実験炉を4年間ほど事故無く運転しています。現在のウラン原子炉技術に比べると異質で新規的ですが革新的な技術です。

 

<参考資料>

 

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012

TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report

 

以上

 

 

2014年6月29日
トリウム原発 ウェスティングハウス社2 (18) 


6月27日付けのブログで紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。  
  

ここではそのうちの2件目について参考資料1に基づいて和訳して紹介します。

 

<未来型原子炉名>

トリウム燃料減速緩和型沸騰水型原子炉(Thorium-Fueled Reduced Moderated Boiling Water Reactor)

 

<企業名>

ウェスティングハウス社。

 

<出力>

1,356 MW(訳注:福島原発の6号機の規模と大きい出力)

 

<効率>

34%(訳注:現行の原発での30%程度よりやや高い)。

原子炉の出口温度は 288度C。

 

<核燃料>

トリウムと超ウラン元素の混合体(訳注:固体。ウラン燃料との混合ではない)。 

 

<冷却剤>

軽水。  

 

<核分裂を引き起こす中性子>

エピサーマル中性子(訳注:中性子はそのエネルギーで10種類に分類されており、熱中性子より少しエネルギーが高い中性子。中性子のエネルギーによって核分裂が影響を受ける)を使う。  
  

<原子炉の寿命>

60年。

 

<燃料の入れ替え>

毎年。

 

当ブログからの補足ですが、この原子炉は現在商用で柏崎、浜岡などで稼動している改良型沸騰水型原子炉(advanced boiling water reactor)を基本にし冷却法も従来と同じであり、技術的な難易度は高くないと推察します。
    

報告書の中には、核燃料製造のビジョンが図解されています。その図を読み解くと、軽水炉からの使用済みウラン燃料がリサイクルセンターに輸送され、加熱した溶媒を使ってウランを回収し、残りの超ウラン元素(TRU)とこの新しい方式の原子炉が生成するアクチ二ド元素をトリウムに混合して核燃料を作ります。やはり、超ウラン元素を処理(消費)できることを大きな特徴にしています。
    

なお、この原子炉の名称にある「減速緩和 reduced moderated」と言う表現は、原子炉の中で発生する高速中性子を熱中性子までは減速しないという意味です。この「緩和」という和訳は当ブログで行ったものです。
     

 <参考資料> 

1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012  
TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report
    

以上

 

  

2014年6月28日  
トリウム原発 ウェスティングハウス社 (17) 


前回のブログ(6月27日付け)で紹介したように、米国エネルギー省が2012年12月に未来型原子炉のコンセプトを原子力業界から募集して得た提案8件の中にトリウム原子炉が3件含まれていました。  
  

ここではそのうちの1件について参考資料1に基づいて要点を和訳して以下に紹介します。

 

<未来型原子炉名>

トリウム燃料高速炉(thorium-fueled fast reactor)。

 

<提案企業>

ウェスティングハウス社。

 

<出力>

410 MWe(訳注:福島原発一号機の規模)。

 

<効率>

41%(訳注:高い効率である。現行の原子炉は30%ほど)。

原子炉の出口温度は 497度C。

 

<核燃料>

トリウムと超ウラン元素(訳注:固体。ウラン燃料との混合ではない)。

 

<冷却剤>

ナトリウム金属(液体)。

 

<核分裂を引き起こす中性子>

高速中性子を使う。

 

<原子炉の寿命>

60年。

 

<核燃料の入れ替え>

毎年。

 

<長所>

①現在の原子炉から発生する廃棄物に含まれる放射性

 の超ウラン元素をトリウムと混合して燃料として使

 うので、超ウラン元素を消費できる(参考資料の

 2)。

②核燃料の濃縮は不要である。

 

当ブログからの補足ですが、トリウムは豊富に埋蔵されている核燃料です。この提案では燃料の形態は現在のウラン原子炉と同じ固体ですが、原子炉はまだ商品化されていない高速炉を使います。冷却は水ではなく反応性の高い液体ナトリウム金属であり、これは高速炉で使われる新技術です。超ウラン元素を核燃料に使うことはこれからの研究開発と思われます。未来型の原子炉ということで、開発要素は当然ながら相当に含まれています。
    

なお、現在の原子炉から発生する超ウラン元素はTRU廃棄物として知られており、その半減期が長いため長期に渡って放射線を出すので、その処分の方法が難しく、地下数百メートルの深さに埋め込む「地層処分」という方法が検討されていると言われています。
     

<参考資料>

 1.米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012
 
TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report  

 

2.高速炉会議 Fast Reactor Conference FR13

      4-7 March 2013 Paris France

発表題目 "Safety Aspects of Thorium Fuel in Sodium-Cooled Fast Reactors"

著者:C.Fiorina、F. Franceschini (Westinghouse Electric) ほか

http://www.iaea.org/NuclearPower/Downloadable/Meetings/2013/2013-03-04-03-07-CF-NPTD/T3.3/T3.3.franceschini.pdf#search='westinghouse%2C+thorium+fuel+fast+reactor'
    

以上
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2014年6月27日

トリウム原発 米国エネルギー省 (16)

 
米国エネルギー省(US Department of Energy; DOE)の原子力エネルギー部(Office of Nuclear Energy)が2012年2月に未来型の原子炉(advanced reactor)のコンセプトを原子炉業界から集めて、その後検討した結果が、同年12月に公表されています。その中にはトリウムを使う原子炉のコンセプト提案が含まれています。  
  

原子炉業界からは8件の将来型原子炉のコンセプトが提案され、その中の3件がトリウムを使用する原子炉でした。トリウムへの注目度が高まっていることが分かります。

 

この3件のうち2件は ウェスティングハウス社 Westinghouse Electric Company からの提案で、もう1件は フリ-ベエネルギー社Flibe Energy (2011年にNASAの技術者ほかが設立)という新進の企業からです。  
  

ウェスティングハウス社の2件の提案は固体のトリウム燃料を使い、フリ-ベエネルギー社はトリウム熔融塩での提案です。

 

ウラン原子炉をビジネスにする巨大企業のウェスティングハウス社(東芝が多数株を取得して親会社となっている)は現在のウラン原子炉の延長線にある固体トリウム原子炉から踏み出しませんが、トリウム熔融塩原発の実現を目的に設立されたフリ-ベエネルギー社は当然ながらトリウム熔融塩原子炉の提案を行いました。
    

次回のブログで、上記のトリウム原子炉の提案を見ていきます。

 

付記:米国エネルギー省の原子力エネルギー部が2012年2

   月に原子力業界に依頼を出し、将来型の原子炉のコンセ

   プトを募集し、8件が集まりました。原子エネルギー部

   は技術評価パネル(Technical Review Panel; TRP)を

   編成し評価を行わせました。その評価の目的はどのよう

   な研究開発ニーズがあるかを明らかにすることであり、

   その結果の一部が明らかにされました。しかし、トリウ

   ムについては特に記述が見られませんでした。

 

<参考資料>

米国エネルギー省のウェブサイト

"Advanced Reactor Concepts

 Technical Review Panel Report"

Evaluation and identification of future R&D on eight Advanced Reactor Concepts, conducted April - September 2012  
   TRP Report Final December 2012

http://energy.gov/ne/downloads/advanced-reactor-concepts-technical-review-panel-report  
  

以上

 

2014年6月24日 

トリウム原発の開発 カナダ (15)

 
国際原子力機関IAEAからのトリウム原発に関する報告書(2012年発行)から、以下にカナダに関する状況の一端を手短にまとめます。

 

・カナダが開発した CANDU 原子炉向けにトリウム固体燃料の

 作製が Atomic Energy of Canada Limited (AECL) で研究さ

 れた。

・トリウム燃料は、プルトニウム、ウラン233や高濃縮ウラン

 との混合体であった。混合体が不均一だと原子炉内にホットス

 ポットを生じるため、均一な混合体にすることを目標とした。

・混合方法としては、機械的に混ぜる方法と溶液による方法が

 研究された。

・照射の実験では、天然のトリウム酸化物、トリウムと高濃縮ウ

 ランの混合酸化物燃料とトリウムとプルトニウムの混合酸化物

 燃料の3種類が試験された。結果は良好であり、その後の

 1970年後半から1980年前半での実験に引き継がれた。

 

以上がまとめです。

 

カナダはウラン、トリウムの埋蔵量ともに豊富な国として知られています。CANDU原子炉はカナダで開発されたカナダ型重水炉です。現在、世界で稼動するほとんどの原子炉は軽水炉ですが、重水炉は、重水が軽水よりも中性子を吸収しにくいため核反応に使える中性子が多く、濃縮するという工程に通さずにそのまま天然ウランを核燃料として使用できるという大きな特徴があります。ただ、重水は軽水に比べて高速中性子を減速する能力が小さいため、原子炉を大きくしなければならないこと、重水そのものが極めて高価であること、放射性のトリチウムを多く発生するなどの欠点が知られています。
    

Candu 原子炉はカナダ国内と海外で販売され、2002年には中国で2機が操業を開始しました。

 

Candu 原子炉は、現在、カナダのCandu Energy Inc が取り扱っています(Atomic Energy of Canada Limited の商用原子炉部門を 2011 年に買収)。  
  

Alvin Weiberg Foundation のウェブ上の記事(2012年12月28日付)によると、中国で Candu 原子炉がトリウム固体燃料を利用できるようにデザイン変更が進行中とのことでした。この改造機は Advanced Fuel Candu Reactor (AFCR) と呼ばれます。当時の計画では、2014年までにAFCRの設計が完了し、2016年までに小規模なデモ機をつくるというものです。  
  

中国のトリウム原発の開発には、米国はエネルギー省が(6月19日付けのブログを参照)またカナダは私企業が実際に絡んでいることが分かります。

 

<参考資料> 

1.国際原子力機関、IAEA

International Atomic Energy Agency

2012年発行、全171ページ

"Role of Thorium to Supplement Fuel Cycles of Future Nuclear Energy Systems"

Page 9 - 14

http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/8703/Role-of-Thorium-to-Supplement-Fuel-Cycles-of-Future-Nuclear-Energy-Systems  
   

2.Alvin Weinberg Foundation のウェブサイト

"Alternative fuels such as thorium in existing reactors? China `can do!`"

Dec 28, 2012

http://www.the-weinberg-foundation.org/2012/12/28/alternative-fuels-such-as-thorium-in-existing-reactors-china-can-do/
    

以上

  


2014年6月23日 
トリウム原発の開発 ロシア (14)

 
国際原子力機関IAEAからのトリウム原発に関する報告書(2012年発行)から、以下にロシア連邦の状況を手短にまとめます。

 

・ロシアは化石燃料(特に石炭)への依存度が高いが、発電施設

 が寿命に近づいている。

・原発への依存度は2012年時点で16~25%であり、これ

 を2030年までに増加させる国家政策である。

・原発への依存度を増加させるために、ウラン238の活用を進

 めることが国家計画となっている。そのためには、高速炉(

 fast reactor)を使用する。

・2050年までに、原発における高速炉のシェアを60%に高

 める。

・選択肢として、現在使用されているロシア型加圧水型原子炉

  (WWER;Water-cooled Water-moderated Power Reactor  

   軽水冷却・軽水減速型加圧原子炉)の 改良版でトリウム  

 233とウランの混合固体燃料を用いるアイデアがある。

 

以上がまとめですが、ロシアはウランの埋蔵量は潤沢です。ウラン原発では天然ウランに0.7%という微量で含まれるウラン235しか核燃料として使えず99.3%含まれるウラン238が残ってしまいます。高速炉ではこの大量に残るウラン238を活用できるため、ロシアとしてはぜひとも実現したい計画です。高速炉は、ウラン原発で大量に残るウラン238を高速中性子でプルトニウムに変換しそのプルトニウムを核分裂させる原子炉と言えます(プルトニウムの増殖はしません)。ロシアは原型炉 BN600、今は実証炉 BN800での検証と進んでおり、2020年代には商用炉の BN1200 を運転開始を目指すことのようです。
    

一方、ロシアはトリウムの推定埋蔵量が155キロトンとされており、トリウムは十分に魅力的な資源となります。ウランもトリウムも国内に埋蔵しているという点では、日本からみるとうらやましい限りです。  
  

余談ですが、高速炉(fast reactor:プルトニウムが生成されるが消費されるウランより少量なのでプルトニウムを外に取り出す目的は無い)と同原理で動作する高速増殖炉(fast breeder reactor:消費されるウランより多い量のプルトニウムが生成されるので、そのプルトニウムを取り出すことが目的である)については、日本では高速増殖原型炉のもんじゅでナトリウム漏洩火災事故などを起こし、その挙句には2013年5月に、一万点近くの機器の点検洩れ放置で原子力規制委員会から無期限の運転禁止を命じられていると報道されています。2014年6月になってようやく、もんじゅの所長が原子力規制庁を訪れ、保守点検の改善に向けた取り組みを報告した(福井新聞 online;2014年6月6日付け)と言うことです。高速増殖炉の開発は一筋縄では進まないようです。世界をみても、高速増殖炉の開発は、米国(中止)、ロシア、イギリス(中止)、フランス(スーパーフェニックス2中止)、ドイツ(中止)、イタリア(中止)、インド、中国が進めて来たと言われてますが、ロシアが先行しているようです。  
  

付記:現在のロシアではトリウム原発の開発に関する国レベルの

   取り組みは報道されていないようです。

 

<参考資料> 

1.国際原子力機関、IAEA

International Atomic Energy Agency

2012年発行、全171ページ

"Role of Thorium to Supplement Fuel Cycles of Future Nuclear Energy Systems"

Page 3 - 9

http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/8703/Role-of-Thorium-to-Supplement-Fuel-Cycles-of-Future-Nuclear-Energy-Systems
    

以上

 

   

2014年6月21日
英語 ちょっと 原子力の専門用語 fissile と fertile

 
原子力工学で使われる専門用語に、fissile と fertile があります。この二つは原子炉の世界を支配する基本用語で、原子力工学の基礎概念を形成しています。国際原子力機関IAEA(International Atomic Energy Agency)の資料に現れた用例を以下に紹介します。  
  

"Th232 is a fertile material that can be converted in nuclear reactors into fissile material (mainly U233), which can be used for the energy generation in a similar way to naturally occurring U235."
 
「トリウム232は原子炉の中で核分裂性物質(主にU233)に変換できる燃料親物質です。 このU233は天然に存在するU235と同じような方法で原子力エネルギーの生成に使われます。」
    

<解説>

核分裂性物質 fissile material は原子炉の中で熱中性子を吸収して核分裂を起こします。原子炉や原爆に使われる有名なウラン235とプルトニウム239のほかに、まだ一般にはあまり馴染みのないトリウムという元素を親として生成されるウラン233などがあります。
    

一方、燃料親物質 fertile material は核分裂をする能力を持ち合わせていませんが、中性子を吸収して核分裂性物質を生み出します。その例としては、天然のトリウム232からウラン233という核分裂性物質が生み出され、また天然のウラン238からプルトニウム239という核分裂性物質が生み出されます。
    

なお、fertile は「土地が肥えた、実り多い、繁殖力のある」を表す形容詞ですので、この燃料親物質という専門用語にぴったり当てはまりますね。 

 

<用例の出典>

 

国際原子力機関、IAEA

International Atomic Energy Agency

2012年発行

"Role of Thorium to Supplement Fuel Cycles of Future Nuclear Energy Systems"

序文から

http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/8703/Role-of-Thorium-to-Supplement-Fuel-Cycles-of-Future-Nuclear-Energy-Systems

以上

 

  
2014年6月20日
トリウム原発の開発 国際原子力機関 IAEA でのレビュー (13) 


世界の162カ国が参加する国際原子力機関(IAEA, International Atomic Energy Agency:1957年に米国の主導で国際連合に設立された)がトリウム原発のレビューを行っています。
  

国際原子力機関の中に2000年に設立された「革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO=International Project on Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles)」において、「トリウム燃料サイクルの更なる研究(Further Investigation of Thorium Fuel Cycle)」という活動が2007年12月に開始され、2009年に開催されたINPROの会議で、次のトリウム原発の可能性が取り上げられました。
    

(1)ウランとトリウムの混合固体燃料。

(2)プルトニウムとトリウムと混合固体燃料。

(3)トリウム増殖炉とトリウム原発の組み合わせ。

 

2012年には、国際原子力機関IAEAからトリウム原発に関する最終報告書(INPROの活動結果;全171ページ)が発表されました。その題目は、「将来の核エネルギーシステムの燃料サイクルを補完するトリウムの役割: "Role of Thorium to supplement Fuel Cycles of Future Nuclear Energy Systems"」です。その結論では、推定埋蔵量がウランよりも多いトリウムは化学的に不活性で熱伝導率がウラン酸化物よりも良いなど優れた性質を持っており魅力的であるとした上で、① 重水炉に適用できる、② 現在のウラン原発のほとんどに使われている軽水炉では操業方法に大幅な変更が必要、③ ウランの価格が$400/kgを超えるとトリウムに経済性が出てくる(訳注:過去10年のウラン価格は$100/kg前後、1990年代は$20/kg前後)、といった内容でした。  
  

今回のIAEA/INPROによるトリウム原発のレビューは、トリウムは現行のウラン原発系を補完する役割を担う、という視点で進めるとしていることが報告書に記述されています。そのため、レビューは固体燃料としての利用に焦点が当てられています。  

 

<参考資料> 

1.国際原子力機関、IAEA

International Atomic Energy Agency

2012年発行

"Role of Thorium to Supplement Fuel Cycles of Future Nuclear Energy Systems"

http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/8703/Role-of-Thorium-to-Supplement-Fuel-Cycles-of-Future-Nuclear-Energy-Systems
    

2.国際原子力機関、IAEA

International Atomic Energy Agency

2009年発行

Ray Sollychin

"Exploring fuel alternatives"

http://www.iaea.org/Publications/Magazines/Bulletin/Bull511/51104894344.html

 

以上

 


2014年6月19日 
トリウム原発の開発 米国 (12)

 

  米国において、原子爆弾が開発された第二次世界大戦以来、ウランとトリウムによる核兵器の競争開発が進められ、また1960年代にはトリウム熔融塩原発が Alvin Weinberg 核物理学者の指導の下にオークリッジ国立研究所で試運転にまで至りながら、核兵器としてウランの優位性が確立され、トリウム原子力の開発が中断されたというような経緯があることが、ロイターの特別記事(2013年12月20日付け)に記述されています。  
  

現在、トリウム233がウランに代わる核燃料として世界で見直され、中国、インド、ノルウェーなどがトリウム原発開発を進めている中で、トリウムに最も経験の深い米国がトリウムに積極的に乗り出そうとしているようには見えない不思議とも思われる状況です。  
  

当ブログでは、上記のロイターの英文記事から米国のトリウムに関する状況を拾います。

 

(1)米国エネルギー省(DOE)

 ・2011年1月に、中国科学院がエネルギー省と熔融塩

  冷却材での協力に関する議定書(protocol)に署名しま

  した。

 ・Weinberg Foundation の特集(2013年)によると

  米国の専門家が中国の熔融塩冷却炉のデザインレビュー

  に参加したということです。

 

(2)オークリッジ国立研究所(エネルギー省DOEの所管)

 ・ウラン原発に冷却材として熔融塩を用いる小規模な研究

  プロジェクトがあります。

 ・トリウム原発を開発する中国科学院に熔融塩に関して協力

  しています(エネルギー省と中国科学院の契約)。

 

(3)MIT、UCバークレーとウィスコンシン大学

 ・エネルギー省から熔融塩冷却技術で研究資金を得ています。

 

(4)ペンタゴン

 ・2009年に、元下院議員かつ二つ星の海軍大将であった

   Joe Sestak 氏が、軍事目的でトリウムを見直すようにペ

  ンタゴンに進言したが、取り入れられませんでした。

 

(5)米国議会

 ・2010年に民主党と共和党の下院議員2名が平和利用の

  目的で、米国の安全保障と外交政策の観点からからトリウ

  ム燃料サイクルの技術を他国に提供する法案を提出したが、

  成立しませんでした。トリウムでは半減期の長い核廃棄物

  が減少しまた核拡散のリスクが減るという利点を狙っての

  法案の提案でした。

 

(6)米国政府

 ・エネルギー省の中国科学院への協力を米国政府は歓迎して

  いるようです。これは、米国が新しい原子炉の研究にほと

  んど資金をつぎ込んでいない状況下で、中国のトリウム

  原発の開発が進むと化石燃料の代替技術が生まれる可能性

  があるという考え方です。

 

(7)米国軍部

 ・トリウムは軍用の可能性があるが、米国では過去60年ほ

  どに渡ってウラン原発を有効に使用してきており、その代

  替の技術を開発する意図を軍部は持っていないということ

  です。

 

(8)Flibe Energy社

 ・小型のトリウム熔融塩炉を開発するために、2011年に

  設立されました(設立者は元NASAの技術者ほか)。 

 

以上が、ロイターの記事からの抜き出しです。

 

巨額の財政赤字に苦しむ米国としては、ウラン原発で世界を支配し圧倒的な立場にあるという現状と歴史の中で、必要不可欠ではないトリウム原発の開発に巨額の資金をつぎ込む訳にはいかないということなのでしょうか。日本で問題になっている高速増殖炉(breeder reactor)の開発を1982年に中止しています。中国に多量の国債を買ってもらっている米国としては、無い袖を振るよりも、原発の開発が死活問題化している中国のトリウム原発開発を支援するほうが得策ということなのでしょうか。
    

<参考資料> 

1.Reuters

Dec 20, 2013

"SPECIAL REPORT - The U.S. government lab behind China`s nuclear power push"

http://in.reuters.com/article/2013/12/20/breakout-thorium-idINL4N0FE21U20131220
   

2.Weinberg Foundation

June 2013

"Thorium-Fuelled Molten Salt Reactors"

http://www.the-weinberg-foundation.org/wp-content/uploads/2013/06/Thorium-Fuelled-Molten-Salt-Reactors-Weinberg-Foundation.pdf#search='Alvin+Weinberg%2C+ThoriumFuelled+Molten+Salt+Reactors%2C'
  
以上

 

 
2014年6月17日
トリウム原発の開発を理解する上で (10)

 このブログは6月14日にアップロードしたものですが、16日にtawaramakoto氏から貴重なコメントとご指摘を頂きました。そのご指摘に沿ってブログの内容を以下のように組みなおしましたのでお知らせします。  

 

  <6月17日版>

トリウムをどのような方式で原子炉に利用するかは、各国の計画に違いがあり、理解をする上で混乱を招きそうです。

 

現在、世界で開発が進められていると報道などされている方式は、以下の2方式に分けられます。

 

(1)現行のウラン原子炉でトリウムを混合した固体燃料を

   用いる方式

 これは現在のウラン原発の延長線上にある方式です。そのた

 め、技術的な難易度は高くありません。とくにウランが資源と

 して欠乏してきたときに有望な方式です。燃料としては、現行

 のウラン固体燃料の代わりに、トリウムとプルトニウムを混合

 した固体燃料あるいはトリウムとウラン233を混合した固体

 燃料を使います。プルトニウムを使えば、国際政治の課題であ

 る核拡散の問題を低減することができると期待されています

 が、プルトニウムの所在管理と安全管理の問題が付きまといま

 す。そのような問題を回避するためプルトニウムやウラン

 233の代わりに低濃縮ウランを使う開発も計画されていま

 す。

 

 インドとノルウェーが開発を進めています。とくにノルウェー

 の開発には、米国のウェスティングハウス(東芝が親会社)、

 英国とドイツが絡んでいます。

 

(2)新型のトリウム熔融塩炉の開発

 この原発は核燃料に固体ではなく液体(融液)を用いるという

 ことからメルトダウンが原理的に起こらないなど画期的な長所

 が期待できる反面、新しい開発要素を含む技術でもあります。

 この原子炉は、燃料と冷却ともにトリウム熔融塩(液体)を用

 いて行います。元々、米国のオークリッジ研究所が開発し4年

 間ほど試運転を行いました。その開発は中断しましたが、画期

 的な技術であるとして現在見直されています。日本では故古川

 和夫博士が小型のトリウム熔融塩炉の構想を提案されました。

 

 トリウム熔融塩炉は画期的なだけに長期運転での問題、安全、

 リスク管理面での徹底した議論と科学的な検証が求められま

 す。詳細は当ブログの連載(5月24日、25日、28日、29日と

 30日付け)をご参照ください。

 

 中国がこのトリウム熔融塩原子炉の開発を進めています。米

 国のエネルギー省が、後述のように中国の原発技術の開発に

 協力していますが、この開発には中国と連携しないというこ

 とだそうです。

 

現在のウラン原発を改良する技術開発は継続して進められています。その中には熔融塩融液を用いて現行のウラン原子炉を冷却する方式が検討されています。現在のウラン原子炉は冷却材に水を用いています。この水を熔融塩(熱でとけた液体)に代えるという方式です。熔融塩を冷却材に用いる理由は、冷却材の温度を500度Cを超える温度に高くできるため発電効率を向上できることです。この方式では、トリウムは全く使わないのでトリウム原発ではありません。 この方式は、中国が米国のエネルギー省(DOE)の連携を得て開発を進めています。その翼下にあるオークリッジ国立研究所も中国に協力しています。米国が中国になぜ原子力の開発で協力するのか疑問が残ります。私企業では、米国のウェスティングハウス社(東芝が87%の株式を保有する親会社)が中国と協力契約を結んでいます。米国の大学であるMIT、UCバークレーとウィスコンシン大学はDOEからこの技術で研究資金を得ていることが報道されています。  
  

原子炉技術の開発においては、原子炉の基本要素である、核燃料の元素の種類、核燃料が固体か液体であるかと言う物質の状態、また、冷却材の種類の違いによって大きな技術的な区別が上記のように生まれています。  
  

以上ですが 原子炉の開発に賛成、反対に関わらず、トリウムに関連する原子炉開発を理解する上で少しでも役にたてば嬉しい限りです。

 

<参考資料>

Smartplanet

"Westinghouse enters U.S. - China Nuclear collaboration"

July 3, 2012

http://www.smartplanet.com/blog/intelligent-energy/westinghouse-enters-us-china-nuclear-collaboration/
  
 以上 
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2014年6月17日
トリウム原発の開発 日本 (11)

 

日本では、トリウム原発について、インド、中国やノルウェーのような具体的な開発は進められていません。ただし、トリウム熔融塩原発の実用化の体系について、故古川和夫博士によって提案がなされており、2011年3月22日に設立された(株)トリウムテックソルーション (TTS) で、その実証に向けて資金集めが図られています。
  

原子力を事業とする東芝では、その子会社である米国のウェステイングハウス社が固体のトリウム混合燃料を使うトリウム原発の開発に絡んでいます。

 

電力会社では、中部電力が研究テーマの公募を行い、2013年にトリウム原発に係る基礎研究を1件、外部から選んでいます。

 

同年には、日本原子力学会が「熔融塩技術の原子力への展開」研究専門委員会の設置を決めました。 

 

(1)(株)トリウムテックソルーション

 同社のウェブサイトによると、トリウムテックソルーション

 (Thorium Tech Solution Inc; TTS)は2011年3月22日

 に設立されています。初代社長は故古川和夫博士でした。現在

 の社長は古川雅章氏(故古川氏の弟)です。

 

 その前身はIThEMS 社 (International Thorium Energy &

 Molten Salt Technology Inc;同社は2010年に小型熔融

 塩炉FUJIの 開発のため300億円ほどの資金を集めよう

 として設立されています。元参議院議員の福島啓史郎氏が設

 立者兼社長で古川和夫氏が主要メンバーとして参加。)です。

   

 米国のオークリッジ国立研究所でトリウム熔融塩炉を開発した

   Alvin Weinberg 氏ゆかりのAlvin Weinberg Foundation の記

   事(2013年3月22日)によると、TTS社の社長である古川

 雅章氏(故古川氏の弟)はプロトタイプを2018年までにつ

 くりたいということです。これは、コンセプトの確認が目的で

 あり、極めて小規模の発電のプロトタイプになります。TTS

 社の株主には古川和朗教授(故古川氏の息子。高エネルギー加

 速器研究機構所属。)が含まれます。技師長 (chief engineer)

 は木下幹康氏(電力中央研究所の原子力技術研究所特別顧問。

 トリウム熔融塩国際フォーラムの副社長。)です。木下技師長

 によると、FUJIやミニFUJIの商用機について2025

 年頃までには建設を開始したいということです。

 

 現時点では、3千万円ほどの極めて少額の資金集めに集中して

 いるということです(2013年3月の時点)。この目的はハ

 ステロイなどのニッケル合金に腐食を起こさない種類の熔融塩

 を見つけることです。オークリッジ研究所で使用したベリリウ

 ム熔融塩は問題があるので使わないということです。

 

 次には5億円ほどを調達して、核燃料廃棄物として生成される

 ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムと言

 った超ウラン元素(transuranic element)の特性を試験しま

 す。

 

 熔融塩の利点として容易に沸騰しないということがあります。

 しかし逆に温度が下がって固化すると使われているパイプが

 破裂する可能性があります。

 

 またTTS社では、熔融塩炉の他の開発機関で使う2流体

 (dual fluid)ではなく1流体(single fluid)を検討します。

 これはこれまでに実証されていない技術です。

 

 以上は Alvin Weinberg Foundation の記事からでした。

 

 なお、開発の総費用は15年間で2200億円ほどとのこと

 です(木下氏)。

 

(2)(株)東芝

 東芝本体ではトリウム原発の開発は取り組みがないようです

 が、子会社のウェスティングハウス社がノルウェーでのトリウ

 ム原発の開発計画に協力しています。ただしこれは従来のウラ

 ン原子炉を使用して固体燃料にトリウムを混合する方式です。

 自社の新型のウラン原子炉AP1000の売り込みの一環のよ

 うです。

 

(3)中部電力(株)

 中部電力(株)は、社外からの原子力に係る公募研究の採択

 結果を2013年3月に発表しました。13件が採択され、

 そのうちの1件が次のようにトリウム原発の基礎研究に係る

 テーマでした。

  ”原子力の将来技術に資する基礎基盤的研究”

  研究テーマ名「トリウム溶融塩炉の苛酷事故ソースターム

  評価手法の構築を目指す基礎的研究」 福井大学 山脇道夫  

 研究費は1件当たり500万円を限度ということです。

 

 静岡県では川勝平太知事がトリウム原発に強い興味を示してる

 と言われています。

 

(4)トリウム熔融塩国際フォーラム、NPO

 2004年に開始された旧 FUJI研究会が2009年に

 「トリウム熔融塩国際フォーラム」に移行しています。故古川

 博士の意志をついでいる吉岡律夫氏(元東芝の炉心設計者)が 

 理事長です。

 

(5)日本原子力委員会

 政府機関である日本原子力委員会(内閣府に設置されている)

 でトリウム原発が議題に複数回取り上げられています(20

 12年、2013年、2014年)。

 

(6)日本原子力学会

 その核燃料部会で固体のトリウム燃料の利用を2011年に

 検討しています。また、2013年6月に日本原子力学会理

 事会で「熔融塩技術の原子力への展開」の研究専門委員会の

 設置が承認されています。 

 

<参考資料> 

 

1.Alvin Weinberg Foundation

"A plan to turn Japan`s nuclear past into its future with molton salt reactors"

March 22, 2013

http://www.the-weinberg-foundation.org/2013/03/22/a-plan-to-turn-japans-nuclear-past-into-its-future-with-molten-salt-reactors/
     

2.(株)トリウムテックソルーション ウェブサイト

http://ttsinc.jp/

  

3.中部電力(株)ウェブサイト

http://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3212786_6926.html

  

4.トリウム熔融塩国際フォーラム、NPO ウェブサイト

http://msr21.fc2web.com/

 

5.第17回原子力委員会臨時会議 議事録

  2013年5月9日 

 

6.日本原子力学会核燃料部会 平成25年度活動報告

  2014年3月31日  

 

以上

 

 

2014年6月13日   
トリウム原発の開発 ノルウェー (9) 


ノルウェーでのトリウム原発開発の現況を、報道記事、開発企業のウェブサイトなどから、以下に手短にまとめます。

 

ノルウェーは水力発電でその発電エネルギーの95%を賄っていると言われる国ですが、トリウムの推定埋蔵量は320キロトンと豊富です。

 

(1)トリウム原発の開発企業

 2006年に設立された 私企業のThor Energy 社がトリウム

 原発の開発を進めています。Thor Corporation がその 81.3%

 の株式を保有しています。Thor Corporation は Scatec とい

 う再生エネルギーの企業が親企業です。

 

(2)トリウム原発の形態

 現在のウラン軽水炉で、トリウムとプルトニウムを混合した

 Th-MOXと呼ばれる固体燃料を使用する形態です。現在

 の技術の延長で新しい核燃料を使えるため、開発の確度が高

 いと期待されています。また、プルトニウムを消費できるた

 め、世界の核拡散防止政策に適うという国際政治上の利点が

 強調されています。

 

(3)支援する組織

 ノルウェー政府、イギリス政府、米国のウェスティングハウ

 ス(東芝が親会社でその87%の株式を保有)などです。

 

(4)現状と計画

 すでにノルウェー政府保有の重水炉でトリウムープルトニウ

 ム燃料による実験が開始されているということです。この燃

 料はドイツで作製されています。次はノルウェーで作製し、

 商用グレードは英国の National Nuclear Laboratory が提供

 するような計画です。なお、トリウムープルトニウム混合燃

 料では10%のプルトニウムで臨界に達することができるそ

 うです。

 

この方式が完成したとして、それだけですんなりとウラン燃料に置き換わることは、ウランが欠乏しない限り、容易に起こりそうにありません。プルトニウムを消費するということは、プルトニウムが運搬され世界のあちこちらの原子炉にばら撒かれることになり、プルトニウムの所在管理や安全管理が確実に行えるのか懸念が生まれてきます。  
  

<参考資料>

1.Thor Energy のウェブサイト

http://www.thorenergy.no/

 

2.Uraniuminvestingnews

January 21, 2014

http://uraniuminvestingnews.com/17236/thorium-an-alternative-for-nuclear-energy.html
    

3.BBC News

October 31, 2013

http://www.bbc.com/news/science-environment-24638816

 

4.extremeTech:Ziff Davis, LLC の登録商標

July 1, 2013

http://www.extremetech.com/extreme/160131-thorium-nuclear-reactor-trial-begins-could-provide-cleaner-safer-almost-waste-free-energy
  
5.Singularityhub

December 11, 2012

http://singularityhub.com/2012/12/11/norway-begins-four-year-test-of-thorium-nuclear-reactor/
  
6.Smartplanet

November 22, 2013

http://www.smartplanet.com/blog/bulletin/norway-ringing-in-thorium-nuclear-new-year-with-westinghouse-at-the-party/
    

以上

 

   

2014年6月11日
トリウム原発の開発 インド (8) 


インドでのトリウム原発開発の現況を、報道記事、研究開発機関のウェブサイトなどから、以下に手短にまとめます。

 

(1)開発の動機、目的

 インドのトリウム原発の開発に当たっている国立の原子力研究

 機関である Bhabha Atomic Research Centre のウェブサイ

   トによると、インドはウラン資源が限られているが、トリウム

 資源は Kerala と Orissa という海岸の砂に豊富に埋蔵されて

   おり、これを有効にかつ持続的に利用する目的で研究が開始さ

 れたと言うことです。モザナイトという鉱石が埋蔵されてお

 り、そのトリウム含有量は8~10%とされています。

 

   World Nuclear Organization(英国)によると、インドは

 世界で第一のトリウム埋蔵量を誇っており、推定で846

 キロトンとされています(ちなみに中国は100キロトンの

 推定)。世界の埋蔵量推定は5,385キロトンであり、

 インドはその15.7%を占め、トリウム原発を国家の開発

 目標とすることは自然な成り行きと言えます。

 

(2)開発の対象

 インドは固体燃料の形でトリウムを原発に利用する開発計画

 を進めています。The Economist の記事(April 12, 2014)

 によると、すでに研究用の小型のトリウム原発が ムンバイに

 立地する国立の The Indira Gandhi Centre for Atomic

   Research で稼動していると言うことです。

 

 なお、World Nuclear Organizationの記事によると、インド

 は1998年にトリウムから生成したウラン233を使った

 小型の原子爆弾を実験しています(米国はウラン233とプル 

 トニウムを混合した原子爆弾を1955年に実験しました)。

 

 まず、先端型重水炉(Advanced Heavy Water Reactor:

 AHWR)を開発します。この原発は、核燃料として、2種類を

 使います。一つはトリウムとプルトニウムの混合の固体燃料

 (Th-Pu MOX)、もう一つはトリウムとウラン233の混合

 の固体燃料(Th- U233 MOX)です。この原子炉は加圧型で、

 中性子の減速材として重水また冷却材として沸騰軽水を利用

 する設計です。設計は完了したと言うことです。出力の予定は

 300MWe(200家族の電力需要の規模)です。

 

 次には、低濃縮ウラン先端型重水炉(Advanced Heavy

   Water Reactor: AHWR-LEU)を開発します。この原子炉で

 は、核燃料としてトリウムと低濃縮ウランを混合した固体燃料

 を使います。プルトニウムやウラン233の代わりに使低濃縮

   ウランをうことで、国際政治で大問題となっている核拡散の懸

   念を低減できます。この炉は現在設計中です。出力の予定は

 300MWeです。輸出がターゲットとなっています。

 

(3)開発のスケジュール

 AHWRは建設が2017年、稼動開始が2022年となってい  

 ます。一方、AHWR-LEU については、スケジュールが不明。

 

トリウムを従来のウラン原発技術の延長で固体燃料として使うことを狙うインドと実用の実績はないが安全性、発電効率、廃棄物処理の問題などで期待が高いトリウム熔融塩原発の開発に着手した中国と好対照となっており、両国における今後の開発の進捗が見ものです。  

 

<参考資料> 

1.Bhabha Atomic Research Centre (BARC), India

Web site

"Thorium fuel cycle in India"

http://www.barc.gov.in/reactor/tfc.html

 

2.The Economist

April 12, 2014

"Thorium reactors, Asgard`s fire"

http://www.economist.com/news/science-and-technology/21600656-thorium-element-named-after-norse-god-thunder-may-soon-contribute
    

3.World Nuclear Association, UK

"Thorium"

March 2014

http://www.world-nuclear.org/info/current-and-future-generation/thorium/

 

4.Nuclear Energy Institute

"India Turns to Thorium As Future Reactor Fuel"

Winter 2012

http://www.nei.org/News-Media/News/News-Archives/india-turns-to-thorium-as-future-reactor-fuel
    

以上

 

  
2014年6月9日
トリウム原発の開発 中国(7) 


中国でのトリウム原発開発の現況を、報道記事から以下に手短にまとめます。

 

現在、トリウム熔融塩原発の開発に世界の中で中国が一番力を入れています。石炭依存から大気汚染のない原発依存に早く移行したいという国レベルでの要請が強まっており、トリウム原発の開発スケジュールを15年前倒しするよう、中国科学院がこの2014年4月に中国政府から求められたと報道されています。  
  

(1)開発の動機、目的

 中国の電力は石炭でほとんどが賄われておりその多くは輸入に

 頼り、今後経済成長を支えるためにはその輸入量が大幅に増大

 するという予測があり、国家エネルギー保障の観点から輸入石

 炭への依存度を下げたいという差し迫った状況に中国はありま

 す。また、石炭による発電所からの空気汚染が深刻な問題とな

 っています。このような問題の解決策として、原子力発電の利

 用度を飛躍的に高めることが重大な国家戦略となっています。

 原子力はウランで構わないが、ウランは自国での産出量が少な

 く一方トリウムは中国で豊富に産出できるため、トリウムは原

 子力発電の選択肢を広げる格好のヘッジ(hedge)となりま

 す。一方で、軍事面からの見方は、トリウム原発は中国が必要

 とする航空母艦などの推進力として使える可能性があるという

 ことです。また中国はウランを使う原潜で苦労しておりトリウ

 ムが選択肢となる可能性があるということでもあります。以上

 は主にロイターの記事(2013年12月)からです。

 

 2014年3月の South China Morning post や the guardianの

 記事によると、大気汚染の問題が前面に押し出され、中央政府 

 の要請でトリウム原発の開発を急遽15年前倒しすることになっ

 たということです。 

 

(2)開発の対象

   開発される原子炉はトリウム熔融塩原発であり、驚くことに

 米国のエネルギー省(DOE)と開発の協力に関して議定書  

 (protocol)が 2011年に署名されています。

  

 The Economist の記事(2014年4月12日)によると、まず、

 2015年にトリウムの固体燃料を使った実験炉を稼動させ、

 2017年までにトリウム熔融塩炉を立ち上げることになって

 います。

 

(3)開発の計画

 2011年に中国科学院が商業用にトリウム熔融塩原発を開発す

 ることを発表しました。目標は商業化を2040年までに実現す

 ることでした。この目標が15年短縮され、現在では2024年

 までに商業化を実現することになります。今から10年の開発

 期間しかなく、大変に厳しいスケジュールと考えられます。

 

中国は核兵器の開発・保有国であり、核兵器の有効な原料となるプルトニウムを生成できるウラン原発は国家安全保障や最近の海洋拡大政策上やめることのできないものと考えられます。しかし、商用のトリウム原発を実現できれば、ウラン原発よりも安全性が格段に高いと期待されているトリウム原発で空気汚染問題を解決でき、また自国でふんだんに採掘できるトリウム鉱石を使うことでウランや石炭の輸入依存度を低減できるという国家エネルギー安全保障上願っても無いような状況が生まれそうです。中国は、先進諸国と違って、原発廃止といった主張は論外で、経済成長を支えるエネルギー政策の選択肢は原発の他にはありません。そうした中で、2011年に福島原発の悲劇が起こり、より安全な原発としてトリウム原発が見直されたという気運があると言えそうですが、現在建設中の原発が28基もあると言われウラン原発をエネルギー政策の主軸にもってこようとしている中国としてはウラン原発の危険性を声高々に国民の前で説明することはあまり得策では無いでしょう。
    

(付記)トリウム原発の開発について、当ブログで5月24日から30日に5回の連載と6月8日のブログで紹介しています。

 

 <参考にした資料> 

1.The Economist

April 12, 2014

"Thorium reactors, Asgard`s fire"

http://www.economist.com/news/science-and-technology/21600656-thorium-element-named-after-norse-god-thunder-may-soon-contribute
    

2.South China Morning Post(南華早報)

March 18, 2014

"Chinese scientists urged to develop new thorium nuclear reactors by 2024"

http://www.scmp.com/news/china/article/1452011/chinese-scientists-urged-develop-new-thorium-nuclear-reactors-2024?page=all
  
3.the guardian

March 19, 2014

"China working on uranium-free nuclear plants in attempt to combat smog"

http://www.theguardian.com/world/2014/mar/19/china-uranium-nuclear-plants-smog-thorium
  
4.Reuters

Dec 20, 2013

"SPECIAL REPORT - The U.S. government lab behind China`s nuclear power push"

http://in.reuters.com/article/2013/12/20/breakout-thorium-idINL4N0FE21U20131220

 

5.Alvin Weinberg Foundation (London)

October 29, 2012

"Thorium offers energy independence to China. Helps produce hydrogen too."

http://www.the-weinberg-foundation.org/2012/10/29/thorium-offers-energy-independence-to-china-helps-produce-hydrogen-too/
   
以上                   

  

 

 2014年6月8日 
トリウム原発の開発、再開の動機 (6) 


ウランを核燃料として使う現在の原発に対して、トリウムを使う原発、とくに液体(融体)の熔融塩を利用するトリウム熔融塩原発の開発について、当ブログで5月24日から30日に5回の連載で紹介しました。  
  

ウランではなくトリウムを利用する動機あるいは理由は多様ですが、まずは、天然資源としてウランより豊富であると推定されていることと偏在していないという天然資源としての利点があると言われています。レアアース金属の採掘の副産物として掘り出されるトリウム鉱物は、その放射性のため捨てるわけには行かず、その精錬後現場の池や空き地に野積みされていると言われており、もしトリウム原発の核燃料として消費できれば、「ゴミの山」が宝の山に化ける可能性を秘めるトリウムです。一方、国際政治の重要な課題となっている核の不拡散の観点からみると、トリウム原発からはプルトニウムが生成されないという願ってもない利点を挙げることができます。また、ウラン原発のような固体燃料ではなく液体のトリウム熔融塩燃料を使う技術が開発されており、原子炉の爆発を誘発する「メルトダウン」という現象が原理的に起こらないと言われています。さらには、放射性生成物質の量を発電とともに時間はかかるが少なくできるため、放射性廃棄物の量が格段に減少するという可能性も挙げられています。
    

それでは、なぜトリウムではなくウラン原発が開発されて現在世界の原発はウラン原発のみとなったのかとう素朴な疑問が浮かんできます。その理由としては、原爆や核弾頭などの開発の過程で、トリウムよりもウランがその目的に適している(トリウムそのものからは原爆をつくれない、ウランは直接原爆に使える上にプルトニウムという原爆に使える元素を副産物として発電中に生成するなど)と判断され、開発の資金がトリウムに回らなくなったというような説明がなされています。原爆の開発後、軍事で蓄積されたウランに関する技術が平和利用の目的で原子力発電に活用され、世界を取り囲む巨大な政治的また産業的なウラン勢力網や権益網が築かれ、トリウムの出る幕は閉じられたのではないかと言うこともできそうです。
    

ところが、最近になって、いくつかの国でトリウムが息を吹き返し、トリウム原発の開発が進められたり議論がなされるようになりました。現在、国のレベルでトリウム原発の開発が行われているのは、中国、インド、フランス、ノルウェー、チェコ、と言われています。米国は、1960年代にトリウム熔融塩実験炉を完成し4年間無事故運転を果たし、現在はその技術で中国と連携を取っています。日本では、FUJIと呼ばれる小型トリウム熔融塩炉が発明(1985年)されました。ロシア、韓国、イギリスも動きがあります。
    

当ブログでは、現在のトリウム原発の開発に焦点を当て、主に海外の新聞の記事や公表物を参考にして各国の状況をチェックしていきます。

 

付記:トリウム原発には熔融塩を使う方式と固体燃料を使う方式があるので、トリウム熔融塩原発に限定せずにトリウム原発という用語を用いています。

 

以上

 

 
2014年5月30日 
トリウム熔融塩原発の開発(5) 


トリウム熔融塩原発に関して、少なくとももう一つのポイントをとりあげておくことが重要です。

 

それは核資源の発掘から廃棄物の処理、廃炉にいたる原子力発電の全体像を俯瞰しておくことです。古川氏の著書からの知識を下に、現在のウラン原発をベースにして、検討します。  
  

1.トリウム資源

 ウランは地下からの発掘が必要ですが、トリウムはレアアース

 金属精錬の副産物として池や空き地にすでに野積みされている

 というイメージで語られます。

 

2.トリウムの精錬

 ウランでも精錬が行われ、イエローケーキ(ウラン化合物の

 混合体)が製造されます。

 

3.トリウムのフッ化物化(転換)の工場

 ウランでもフッ化物化(六フッ化ウランへの)が行われます。

 

4.トリウム熔融塩原子力発電所(原発)

 効率のよい小型の原発を開発できるということで、それぞれの

 都市の近くに配置できることが大きな長所であると著書の中で

 強調されています。このことは、臨海地方に設置する必要がな

 いということを意味するため、津波による福島原発のような大

 惨事の発生を危惧する必要が全くなくなります。

  その一方で、よく考えなければならないことは、原子炉が

 日本中にばら撒かれるということです。トリウム熔融塩原発

 は10万世帯ほどを賄うことのできるような小型の規模ですか 

 ら、日本全体で数百台の設置が必要になりそうです。安全の

 管理と言う点から、十分な事前の検討が必要になります。

 

5.加速器熔融塩増殖炉工場

 この施設は、トリウム熔融塩原発に特有のものです。放射能

 の問題と言う観点からは原子炉と全く同じに扱う必要があり

 ます(500度Cを超える高温での連続操業でもあります)。

 

6.核燃料再生処理施設

 古川氏の説明では、核分裂生成物はトリウム熔融原子炉や

 加速器熔融塩増殖炉のなかで消滅させることができるとい

 うことですが、同氏も説明されているように原子炉や増殖

 炉の出力を低下させることになるため、現実にどの程度実

 行できるかは検討が必要です。また、トリウム熔融塩炉で

 はウラン原発に比べると核分裂生成物の再生処理量は格段

 に減少すると古川氏は著書で説明されています。何といっ

 ても大きなメリットは、核拡散問題で課題となっているプ

 ルトニウムなどの超ウラン元素の発生が無視できるほどと

 いうことです。

 

7.核燃料廃棄物埋め立て施設

 どれだけの量を埋め立てに回す必要があるか、事前の綿密    

 な検討が必要です。

 

8.廃炉

 古川氏の著書には、トリウム熔融塩炉の廃炉について次のよ

 うに書かれています。「炉は1~2年冷却された後に、炉本

 体内部はそのままで、1次・2次系の機器などとともに施設

 から切り離されて、地域センターに持ち帰られる」。この後

 の処理は言及されていませんが、解体、放射能をもつ核分裂

 生成物の分離(再処理のこと)、その分離物の廃棄(地下へ

 の埋め立て)が必要になります。放射能をもつ廃棄物の量は

 ウラン原発に比べて格段に少ないはずです。

 

<参考資料>

1.古川和夫著、「原発」革命、文芸春秋、

  平成13年発行

以上

 

 

2014年5月29日 
トリウム熔融塩原発の開発 (4)

 
トリウム熔融塩原発が開発された場合、東日本大震災によって破壊された福島第一原発で起こったような種類の災害事例を防止できる可能性はどうなのでしょうか。

 

この点について、古川氏の著書から得た知識を下に、福島原発で実際に起こった個々の災害事例を題材にして以下に仮想してみたいと思います。

 

トリウム熔融塩原発は内陸に建設できるので、津波の心配はありませんが、福島原発での災害事例は検討しておくことが必要です。

 

1.核燃料のメルトダウン

 福島第一原発では起こってはならないウラン核燃料のメルトダウンが起こる惨事となりました。メルトダウンの恐怖は、核燃料が溶けて充填密度が高くなった上に制御棒での制御ができないため再臨界を起こして核爆発に至らないかということです。トリウム熔融塩原発では核燃料は融液の状態で使われるため既にメルトしておりメルトダウンと言う現象そのものが原理的に起こらないという説明が著書の中でなされています。メルトダウンという英語は、熔融(熱でとけること。溶でなく熔の漢字に注意)という意味であり、メルトダウンについては確かにそうだと思うのです。しかし、よく考えてみると、トリウム塩融液の濃縮は何らかの原因で起こりえます。濃縮されるということは核燃料の充填密度が高くなることですので、メルトダウンと同じような問題になる可能性があるかも知れません。この点については専門家の方々に十分な議論を行って頂き、市民が議論に参加できるように願います。
    

2.水素爆発

 福島原発では、原子炉本体内を満たしている水が漏れ出したためウラン燃料が封入されているジルコニウム金属円筒が一部水から顔を出して過熱され水蒸気と激しく反応して水素ガスを発生させたと言われています。この水素ガスが原子炉の破損箇所や配管を伝って漏れ酸素と反応して水素爆発が起こったと推定されています。トリウム熔融塩原発ではジルコニウムも水も炉内では使われないのでこのような水素爆発は起こらないと言えます。これはトリウム溶融塩原発の安全に関する利点なのではないでしょうか。  
  

3.放射性のキセノンなどの希ガスの放出

 東京電力の推定(2012年5月24日付)によると、3月12日~31日までの間に、福島原発からは約90万テラベクレルの放射性物質が大気に放出されたということです。主だった元素はセシウム134とキセノン133/135ですが、キセノンを主とする希ガスによって約50万テラベクレルが放散されたという推定です。キセノンは愛知県沖また遠くではカリフォルニアで検出されています。
 
 ウラン原発では、希ガスはウランが封入されているジルコニウム金属円筒内で発生しその中に留まります。希ガスは熱中性子を吸収するためその分原子炉の出力の低下を引き起こします。熱中性子の吸収が最小の金属としてジルコニウムが選ばれているのに、その中で熱吸収の大きいキセノンが溜まったのでは堪りません。また、何らかの理由でジルコニウム金属円筒が破損するとその破損部分から放射性の希ガスが放散されます。トリウム溶融塩原子炉では、発生した希ガスは運転中にヘリウムガスを流して計画的に追い出されるので溜まることがないというのが、古川氏の著書での説明です。
 
 福島原発の原子炉惨事の際にキセノンなどの希ガスが大量に放散されましたが、このようなことはトリウム溶融塩原発では懸念しなくて良いことは大きな利点と言えそうです。
    

4.セシウムなどの放射性物質の放散

 福島原発からは大量の放射性のセシウムが大気に放散されました。トリウム溶融塩原発の場合には、ウラン原子炉にはない「高温格納容器」の中に原子炉、熱交換器、配管などが配置されます。この格納容器は500度Cを越える高温に保たれます。何らかの原因で原子炉が破壊されこの高温格納容器が破損すると、放射性の物質が放射されるという危険性は皆無ではないと仮想されますが、その危険性の程度はよく分かりません。専門家の方々に検討をしていただき市民が議論できるように願います。
    

5.溜まりに溜まる放射性の水

 福島原発では、破壊された原子炉を冷やすため大量の放水が続けられたことはなお記憶に新しいことです。そこに自然の地下水が毎日加わっており、放射能を帯びた大量の水が大量のタンクに貯められておりその処理が大問題として今なお取り組みが継続されています。トリウム溶融塩原発でこのような放水を必要とするような事故が起こりうるのかどうか、専門家の方々に深く検討をしていただき市民が議論できるように願います。
    

最後に、トリウム溶融塩原発の爆発は起こる可能性が仮想されるかどうかということですが、よく考えると可能性はありそうです。炉が何らかの理由で温度が上昇し過熱され、融液の気化が起こると最悪です。爆発するかも知れません。あるいは爆発しないのかも知れません。この点も専門家の方々の検討に委ね市民が議論できるように願います。  
  

ここでは、トリウム溶融塩炉は福島原発の惨事の軽減を期待できる災害の種類とそうとは言い切れない災害の種類がありそうだという、暫定の結論でひとまず、福島原発の個々の災害事例を題材にした仮想の検討を終了します。
    

<参考資料>

1.古川和夫著、「原発」革命、文芸春秋、

  平成13年発行

 

以上                                                    2014.5.29

 

2014年5月28日 
トリウム熔融塩原発の開発 (3) 


現在のウラン原発で生成される核分裂生成物の処理(再処理と廃棄)に目処が立っておらず世界的に大問題となっています。日本では、青森県六ケ所村の再処理工場は未だに完成に至らず、また再処理で発生する放射性廃棄物を地下に埋める候補地が決まっていない状態であり、放射性廃棄物が六ケ所村の施設内に溜まっていくままです。
    

この点に関して、トリウム熔融塩原発はどうなのでしょうか。ウラン原発でつかう固体燃料と異なり、トリウム熔融塩原発では熔融塩という液体(融液)を使うことで核分裂生成物の処理に光明が差し込むというのが、古川氏の主張です。同氏の著書からその主張の内容を以下に大雑把に概略して解説することを試みます。
    

トリウム熔融塩原発からは、おおむね次の3種類の、放射能をもった核分裂生成物が発生されます。

①キセノンなどの希ガス

②熔融塩に溶ける核分裂生成物

③熔融塩に溶けない金属状の生成物

 

ウラン原発では①のキセノンなどの希ガスはウラン燃料が封入されたジルコニウム金属円筒内に残り、核分裂を引き起こす熱中性子を吸収するため原子炉の出力を低下させます。また、ジルコニウム円筒に亀裂が入るとキセノンなどの放射能をもった気体が漏れ出て放射線被爆の問題を起こします。ところがトリウム熔融塩原発では、運転時に融液にヘリウムガスを送り込んでこのキセノンなどの気体を追い出します。そのため、原発内にはほとんどキセノンなどの希ガスが残らないという古川氏の説明です。  
  

次に②の熔融塩に溶ける放射能をもった核分裂生成物は、その種類に応じて原発のトリウム熔融塩あるいは先回のブログで紹介した加速器熔融塩増殖炉のどちらかに溶かし込むと、その中で熱中性子あるいは高速中性子に当たり結果として放射能が消滅していきます。
    

③の熔融塩に溶けない金属状の生成物は、化学処理を施して黒鉛容器に入れてから加速器熔融塩増殖炉に加えると高速中性子に当たり結果として放射能が消滅していきます。

 

しかし、②と③については古川氏が説明されているように問題があります。それは、原子力の発生に使われる熱中性子や核分裂能力をもつ元素の生成に使われる高速中性子を別の目的に消費してしまうので、原発や増殖炉の出力が低下してしまうことです。  
  

古川氏の主張の解説は以上ですが、トリウム熔融塩原発は新たな可能性を秘めた新方式の原発であり、現行のウラン原発の既存勢力の既得権益を脅かすことにもなるため、一般市民が参加した一般市民が理解できるような形でのトリウム熔融塩原発の検討が必要と思われます。  
  

<参考資料>

1.古川和夫著、「原発」革命、文芸春秋発行

 

以上

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2014年5月25日 
トリウム熔融塩原発の開発(2)
  

ここからは少し専門的な内容に立ち入ります。古川氏のトリウム熔融塩原発に関する提案では、原子力発電と核燃料の生産(増殖と呼ばれる)を別々に行うという全体的な仕組みを作り上げることになります。
 
下図(省略)を使いながら説明します。自然界に産するトリウムはその質量数が232の同位体がほぼ100%ですが、この同位体は核分裂を起こす能力をもっていません。核分裂の能力がないため、核燃料としては役立たずで原子力発電にも原爆にも使うことができないいわば核安全保障的には「安全な」同位体です(低い放射能は持っていますが)。ところが、このトリウム232に中性子を当てると核反応が起こりウラン233が生成されます。このウラン233は核分裂をする能力を持っており核燃料として使え、原子力発電と原爆を可能にします。親であるトリウム232は核燃料の役にはたたないのですが、子供のウラン233は核燃料として使えるのです。
 
トリウム原発というのは、親であるトリウム232に中性子を当てて子供のウラン233に変えて、そのウラン233で原子力発電を起こす方式です。古川氏の提案は、トリウム232に中性子当てる専門の施設を準備しそこでウラン233を生産し、別の発電専門の施設にウラン233を送り原子力発電を行うというものです。もう一つの方法は、原子力発電装置内でウラン233を生成させながら発電を同時に行うものですが、二つの機能を同時に行う方式では、トリウム熔融塩原発で世界のエネルギーを賄うようにできるほどの増殖(生産)能力を実現するには、開発のハードルが高過ぎるという趣旨です。
 
古川氏の提案を実現するのに開発要素が高いのがウラン233の生産設備の開発です。加速器熔融塩増殖炉というこれまでの原発では全く使われたことの無い設備を新規に開発することになります。加速器は大電流陽子加速器を使い、1GeVほどのエネルギーに陽子ビームを加速し、トリウム熔融塩炉に入射してトリウム232をウラン233に変換し、ウラン233を生産する構想です。加速器そのものはすでに存在しますが、上記のような生産の目的に必要な安定な稼動を経済的に実現するには挑戦度合いの高い技術開発となります。
      

<参考資料>

1.古川和夫著、「原発」革命、文芸春秋発行

 

以上 
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2014年5月24日
トリウム熔融塩原発の開発 (1)

 

「原発による発電の是非」をどう判断すればよいのか、東日本大震災(2011年3月11日)での福島第一原発の破壊という大惨事以来、日本人の心に重くのしかかっている問題です。
 
この問題に対して明快な答えになるのもではありませんが、今後のエネルギー源の選択を考える際に、世界のいくつかの国で検討が進められているのがウランに代わってトリウムという元素を原子エネルギー源の出発原料に使う発電の方式です。
 
トリウムは原子エネルギー源として以前にも研究が行われましたが、ウランと違って第二次世界大戦以来開発されてきた原爆などの核兵器に向かないという理由で、研究が中断されたと言われています。
 
では、今になってふたたびトリウムが取り上げられる理由は何なのでしょか?これは、様々な要素の理由がからみ合っており複雑です。まず理由として考えられるのは、ウランが掘り尽されるという懸念です。しかし掘り尽される見通しが具体的にあるわけではないようです。ウランの産出はカナダ、カザフスタン、オーストラリア、ロシア、米国、ウクライナ、中国などの上位10カ国に偏っており、ウランの採掘権限はもたないがトリウムを産出できる国にとってはトリウム原発の実現は願ってもないことになりそうです。
 
トリウムはレアアースという金属(携帯電話、パソコン、薄型テレビなどに使われる)の採掘の副産物として出て来るそうです。トリウムそのものはこれといった使い道がないため、エレクトロニクス産業が進展してレアアースの採掘が進むにつれて採掘国ではトリウムがたまって来ているという話があります。トリウムはウランと同様に核燃料でありしかも、低いですが放射能をもつのでおいそれとどこかに捨てるようなことは出来ないでしょう。そこで、レアアースの採掘国がトリウムの処理とトリウムによる発電の二つの利点を狙ってトリウムによる原発の開発を手がけることは自然な成り行きに思えます。2011年にトリウム原発の検討を開始した中国はこの例のようです(この原発は当ブログの主題であるトリウム熔融塩原発です)。
 
ウランを使う原発はプルトニウムを副産物として生成します。プルトニウムは核燃料として知られており、核兵器を保有していない国が容易に核兵器をつくる糸口を与えます。また、テロリストがプルトニウムを入手すると原爆をつくってしまいかねないという可能性が脅威としてのしかかっています。現在は、ウラン原発の平和利用が進むほど、放射能をもった核燃料物質であるプルトニウムが増産され蓄積されるという悪循環に世界があります。
 
トリウムを使う原発は、ウランを使う原発と違ってプルトニウムが生成されません。このことはプルトニウムの問題から世界が開放されることを意味します。また、トリウムを使う原発は、このプルトニウムを同時に消費して発電を行うことが出来ます。トリウムの原発を実現できるとプルトニウムの消費が進み、地球上で人類が生成してきたプルトニウムの貯蔵量を大幅に削減できるという一石二鳥の利点が描かれています。このような利点からは、プルトニウムの削減を推進したい米国が率先してトリウムによる原発の開発を進めているはずですが、いまのところそのような目立った動きは見えないようです。ただ、中国のトリウム原発の開発に熔融塩の開発で協力することを米国は2012年に決めていると言うことです
 
これまでに挙げてきた理由は、動機に関わるといってもよいものですが、原発そのものとして技術的にみたときには、安全性、発電効率、経済性、小規模の原発の可能性などについて、熔融塩を用いるトリウム原発が現在の固体のウランを用いる原発よりもはるかに優れているという主張があります。この主張は、熔融塩という高温(500度C程度)の液体の状態で使う熔融塩原子炉(この原子炉は米国のオークリッジ国立研究所で1950~60年代に開発された)を実用化することが前提にあります。古川和夫氏が、著書「原発」革命(文芸春秋、平成13年発行)で主張されまた大変に詳しい説明をなされています。
 
この古川氏の著書によると、安全性については、核燃料が液体の「メルト」した状態で使われるので、固体燃料の場合に一番恐れられている「メルトダウン」の起こりようがないということです。福島第一原発では、ウラン固体燃料が溶けて液体になる「メルトダウン」が起こり、燃料の充填密度が高まり暴走の危険が発生していましたが、このようなことはトリウム熔融塩原子炉では原理的に起こらないということだと思われます。しかし、安全性については、高温の維持、高温流体の管理、容器の腐食、運転時の事故、放射能をもった核燃料廃棄物は排出されることなど様々な要素に対応しなければならないことは言うまでもありません。
 
発電効率については、ウランを用いる現在の原子炉の大半は軽水炉と呼ばれて水蒸気をタービンに当てる蒸気タービン技術を用いて原子炉で発生する熱を電気に変えていますが、原子炉の機械強度を考えると、水蒸気の温度をあまり高温に上げられないため発電効率が高くない状態で発電をしなければならないと言われています。一方、トリウム熔融塩原子炉は高温の熔融塩を使えるため、発電効率を高くできると、古川氏は著書の中で説明されています。
 
小規模の原発に関しては、古川氏は10万世帯ほどの電力を供給できるトリウム熔融塩原発を想定しておられます。このような規模の原発を各都市の近くに建設することが経済的に可能になるということです。このような小規模原発が実現できれば、発電所を臨海に建設する必要性はなくなり、津波対策の必要性からは解放されると言えそうです。
 
専門的な内容に立ち入りますが、古川氏の提案では、発電と核燃料の生産(増殖と呼ばれる)を別々に行うという全体的な仕組みを作り上げることになります。以降は、次回のブログにゆだねます。
 
<参考資料>

1.古川和夫著、「原発」革命、文芸春秋発行

2. 第17回原子力委員会臨時会議議事録

  日 時 2013年5月9日(金)10:30~11:55

  議 題

  2)トリウム利用技術とその研究開発について(NPO法人

      「トリウム熔融塩国際フォーラム」)

 

(続く)

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